"太陽"みたいな少女
……リーシャ達が村を発った頃。ここはその村よりさらに東にある、とある町。いや、町だった場所。
ここには、至るところから連れてこられた女性達が集められていた。目的は不明であるが、老女から幼女まで関わらず、女性だけがここに集められていた。
「いやあ! いやだあ! 連れてかないで!」
そこに、悲鳴ともいえる叫びが響く。一人の若い女性が、悪魔にどこかに連れていかれる場面であった。抵抗しようにも、力で敵うはずもない。
「ルリ!」
「いやあ! 離せぇ!」
「黙ってろ! 騒ぐならここで殺すぞ!」
「こ、殺すなら殺せばいい! どうせ、どうせこのまま生きてたって……!」
これまでにも、連れていかれた者はいた。その者達は例外なく戻ってこなかった。どこともわからぬ場所で、孤独に死んでいく……生きていても、日々恐怖に震えるだけ。
それなら、今この場で命を落とした方がマシだと思えた。
「……そうか」
……次の瞬間、女性の首と胴が分かれる。ルリと呼ばれた女性では、ない。連れていかれる様子を見守るしかなかった、集団の中の一人だ。
繋ぎ目のなくなった首……その中からまるで、噴水のように血しぶきが上がる。あまりのショッキングな光景に、何が起きたのかわからない。
次第に、理解に頭が追い付いた者が一人、また一人悲鳴をあげ、場は騒然となる。
「死にたい奴を殺してもつまらん。まだごねるなら、お前以外、他にも殺すことになるが……どうする?」
自分以外の誰かが犠牲になった事実……そるは、ルリから抵抗の意思すらも奪う。自分が死ぬ覚悟ができていても、そのせいで誰かが死ぬのだ……受け入れられるはずもない。
力でも言葉でも、抵抗をやめたルリは、これから自分はどこへ連れていかれて何をされるのか……不安に押し潰される。それに答えてくれる者は、ここにはいない。
不安に押し潰される本人とは別に、ルリを助けたい気持ちはこの場にいる全員が持っている。だが、体の自由を封じているこの忌々しい手錠がある限り、悪魔に歯向かっても簡単に殺されるだけだ。
悔しさに歯を食いしばり、中には涙する者もいながら……仲間が連れていかれる光景を、ただ黙って見ているしかなかった。
……また一人、仲間がどこかへ連れていかれた。さらには一人の命が失われた。……女性達の精神は、もう限界であった。
無残に転がる仲間の死体を"処理"しなければならないという事実も、彼女らを苦しめるには充分たる材料だった。
「……」
無言で、仲間の墓が作られる。今の状況に絶望し自害した者、逃走を図ろうとして殺された者……その者らの墓も、いくらか並んでいる。
この区域には、『神封錠』と同じ効力を持つ策が立てられており、逃走はおろか外部からの侵入も容易ではない。リーシャ達が訪れた村とは、明らかに境遇が違った。
「みんな! 気をしっかり持って!」
辛気臭い空気を吹き飛ばさんとばかりに、場違いな声が響く。今しがた仲間が連れていかれたが、それでも気をしっかり持つようにと。
「今回は……ううん、今回も悲しいことになったけど、希望を、捨てちゃダメだよ! いつか絶対、助けは来るよ! 希望を捨てたら、ほんとに……」
「もう無理なのよ! 希望なんて、持つだけ絶望が増すだけ……どうせ私達、みんな死ぬの……」
励ましの言葉も、今やみんなには届かない。連れてこられた当初は、"太陽"のような彼女の笑顔に、言葉に女性達は励まされていた。
だが、日を重ねるごとに……みんなの心は、"太陽"の言葉でも立ち直れないほどにくじけていった。泣き崩れていく女性達。ここに残っているのは、生に、自由に絶望した者達。
自らの命をあきらめながらも、それでも自害しないのは……こんな状況でも『死ぬ勇気』がない他になかった。それを考えれば、過去自害した者こそ勇気のある者として称えられるだろう。
みんなにはもう、自分の声は届かない。その事実が、かつて"太陽"と呼ばれた少女の心をすり減らしていく。赤毛のポニーテールを揺らし、天を仰ぐ少女は……目元を押さえる。
「うぅ、くっ……私もう、無理だよ。誰か、助けて。……助けてよ……お姉ぇ、ヒロ兄ぃ……」
溢れる涙をこらえきれず、誰にも聞こえない声で呟く。己の無力さを呪いながら、絶望的な状況を呪いながら放ったそれは……すがるような思いだけを残し、むなしく空に消えていった。




