"隻腕の死神"
エドワードさんに、金棒の重い一撃が直撃する……そう思われた。だけど、その直前。
「……! ぐ、ぬぅ!」
いつの間に抜いていたのか、『星剣』"星砕き"が鬼流の一撃を受け止めていた。あの重い一撃を、軽々と……いや、あれは……
「わしの攻撃を……受け止め……おっ?」
「受け止めたんじゃない。受け流したんだ」
オニヘイの一撃を受け止めたかのように見せたエドワードさんは、その攻撃を横へと受け流す。それによって相手のバランスを崩した。鮮やかに見えて、とても技術のいる行為だ。
そして……
「“十二星”『蠍』!」
流れるような動きデ、次の瞬間にはオニヘイの体に"星砕き"が突き刺さっていた。ただゆらゆらと揺れているように見えつつ、的確に敵の攻撃を避け、懐へと潜り込む。そして攻撃へと転じる鮮やかさ。
オニヘイの体に突き刺さったそれはまるで、サソリの尻尾についている針が、獲物を仕留めたかのような……そんな印象を抱いた。
「……は?」
己の体に空洞が空き、呆然としていたオニヘイは……間の抜けた声を出し己の体を見る。そこでようやく、自分の体の異常に気づいたようだ。
「がっ……は……っ!」
痛みに頭が追いついたのか、次の瞬間口から赤い液体を吐く。傷というものは、意識すると急激に肉体を痛みが支配する。その点は、人間も悪魔も変わらないらしい。
剣を抜かれたその体は力を失ったかのように、その場に膝をつく。エドワードさんは、生々しい血が付着した剣を振るい、血を払う。穴が空いた傷口からは、どろりとした赤黒い血が流れており……立ち上がろうにも、力が入らないようであった。
「悪魔の血も赤いんだな」
「はぁ、は……ま、さか……こん、な……小僧にこのわしが……」
たった一太刀。だけどそれは、的確に急所を突いたものだ。己の終わりを悟ったのか、諦めたようにオニヘイはエドワードさんを見る。それを冷たく見下ろすエドワードさん。
自分達を支配していた存在に、何を思っているのか。
「がふっ……忌々しい、人間、風情が。……甘く見てたぜ……まさか、"双翼の星"や……"隻腕の死神"……以外に、まだ、こんな、奴が……いた、とは……」
自身の生に諦めを感じながらも、その口調は人間を見下したものだ。人間を見下していたからこそ、中にエドワードさんのような実力を持つ者がいることを想定していなかったのだろう。
「見くびるなよ、悪魔。僕なんかより強い人はたくさんいる……人間をあまり、舐めない方がいい」
人間を見下す悪魔に、返す言葉はあくまでも冷たい。
そして、"星砕き"を振り上げた彼は……なんの躊躇もなく、オニヘイの首を、斬り落とした。
悪魔とはいえ、目の前で首が斬り落とされるというショッキングな光景をスカイくんには見せないように目を塞ぎながらも、私はその光景から目を離せなかった。
「今まで、お前たちのために死んでいった仲間の痛み……少しは、思い知るといい」
その瞳から、一筋の涙を流して、エドワードさんは"星砕き"を収める。再び、謎ポケットの空間にしまい込んだのだ。
彼は、ただ冷酷なだけでなく……仲間の死を思い涙する心優しい人物なのだと、私は感じた。
絶命したオニヘイは、徐々に体が消滅していく。原理はわからないが、悪魔は死ぬと死体が残るわけではなく、消滅してしまう。後には、何も残らない。
「隻腕の、死神か……」
死に際に奴の口から出た、謎の名前。それが、私の中で気にかかっていた。
実は、旅の中でも最近、度々その名を耳にしていた。まあ名といっても、呼称のようなものだろうけどね。
どうやら、悪魔と戦っている者らしいが……その全ては謎に包まれている。ただ二つわかっているのは、"隻腕の死神"というその名。そして、悪魔と対立している者だということ。いつか倒した悪魔が、そんな名前を口にしていた。それ以外に一切の手掛かりはない。
人間かも天使かも、男か女かさえもわからない。……だがこの世界で、私達とは別に、悪魔と戦っている者がいる。それも、おそらく一人で。その名は、単体を指すものだろうから。
正体不明の謎の者。……だけど、私はその名に引っかかるものがある。
隻腕とはつまり、片腕しかないということ。それがどちらの腕かまではさすがにわからないけど。そして、悪魔をして"死神"と言わしめる程の実力の持ち主。私の知っている限り、そんな実力を持った者……人間は、一人しかいない。
「……先生……」
その人物の名は、ティファルダ・アラナシカ。今はない神力学園で、私達の先生だった人物。その実力は、過去ただ一人しかいなかったという、神力学園最高と言われたSランク。その神力を持っている人物だ。
神力はもちろんのこと、それだけでなく肉体的にも精神的にも桁違いに強い。悪魔四神と呼ばれる強力な悪魔を軽く凌ぐその強さは、悪魔からしたらまさしく"死神"だろう。
そんな実力者の先生だが、彼女は人魔戦争の折……片腕を、失っている。経緯は不明だけど、確かに片腕を失っていた。隻腕という特徴に、それは合ってはいる。
……でも先生は、魔王となった……いや、魔王に戻ったヒロトの手により、抜け出すことの出来ない無間地獄という場所へと落とされてしまった。
以降の消息はわからない。生きているのかも、死んでいるのかも。
『何もない、ただ無しかない空間にて、死ぬより辛い孤独を味わいながらやがては死んでいく』
と、キルデは言っていた。それが本当だとしたら……死ぬまで、抜け出せない。しかも、あれから半年も経っている。
仮に先生だったとして、どうやって無間地獄から抜け出せたというのだろう。キルデのあの余裕は、あそこから抜け出す方法はないという表れ。加えて先生自体、体力も減り弱っていた。そんな絶望的な状況で。
……隻腕の死神が先生だという確証はない。私の知っている限り検討するのが先生なだけで、そもそも私の知らない者である方の可能性が全然高い。というのに……
何だろう、この胸のざわめきは。




