一人の戦士として
自分に戦わせてくれ、と……そう告げるのは、エドワードさんだった。隣に立つその人からは、先ほどとは違う……何か、覇気のようなものを感じる。
「エド、ワードさん? でも……」
「あと助けてもらって図々しいお願いなんだけど……僕一人でやらせてくれ。どうか手出し無用で」
自分が戦うと、その心意気は本物だ。しかし、それに加えて手出し無用に頼むと、付け足す。一対一の勝負を望んでいるようだ。
しかしそれはあまりにも……
「ま、待ってください! 私やリーさんもいるんです、二人なら一気に決められますよ!」
と、オルちゃん。そうだ、ここには私とオルちゃんがいる。
自惚れるわけではないけど、二人でいけば大抵の悪魔には負けないだろう。目の前の悪魔はただの雑魚ではないのは感じる。でも、悪魔四神じゃない。
けれどもエドワードさんは、首を振る。
「ずっとこいつらに支配されて……僕もみんなも、溜まってるんだ。助けてもらって、キミ達みたいな女の子に任せて、はい終わりじゃあまりに情けない。だからせめて、こいつは僕に討たせてくれないか」
その気持ちは、わからないでもない。ずっと自分達を支配してきた相手に一矢報いたいというのは、当然と言えば当然だろう。
だからといって、あまりに危険が大きすぎる。許せない、という気持ちでどうにかなる相手では、ないのだ。
なかなか首を縦に振れない。そんな私の肩に、ポンと手が置かれる。それは、ドーズさんのものだった。
「どうか、あいつに任せてみてくだされ。決して、自棄になっているわけではないのです」
任せてくれ、と告げるドーズさんがエドワードさんを見る目は、孫を見る目というより……一人の戦士を見るような目だった。
それに、他のみんなも動揺した様子はない。その目の中にあるのは『信頼』だ。どうやら、何か……彼を信じるに値する何かが、あるらしい。
「……わかりました」
不安は残るけど、任せよう。ここまでみんなに信頼されている彼が、一体何をしてくれるのか。もしヤバくなったら、その時は助けに入るけど。
「ありがとう」
「おいおい……随分と舐めてくれるのぅ」
この場をエドワードさんに任せることに決めたところで、今まで黙っていた悪魔が不服そうに口を開く。その声は不機嫌そのものだ。
まあ悪魔からすれば、誰が自分を倒すか(倒せるかではない)、を決める話し合いをしてたわけだから当然だろうけど……
「誰が戦うか、だぁ? そんなもん……皆殺しにするんじゃから関係ないじゃろうが!」
離れていても、耳の奥まで響く怒号を放ち……直後悪魔は踏み込む。自らの足をバネに、伸びた足はまるでロケットのように飛び出し……エドワードさんではなく、私へと狙いを定める。
「っ! ぐ……!?」
助走の乗った状態で、金棒を振り下ろす。私は咄嗟に手を前に出し、天力と神力を掛け合わせた強固なバリアを作り出す。バリアで、振り下ろされた金棒を受け止める。
「っ……おもっ……!」
攻撃を受け止めることには成功したが、それの重さに私は冷や汗を流す。これは、こいつの力+助走の勢い。こんなの、直撃すれば痛いじゃ済まない。それほどの威力。
……そうか、あいつの三本目の足。それが、踏み込みの際にバネの力を数段上げているのか。
人でも、例えば一本の足で立ち幅跳びをするのと、二本の足で立ち幅跳びをするのでは訳が違う。どちらが勢いがあるか? それは、後者だろう。
それをこいつは、三本目の足を使うことによって勢いを足す手段を持っている。さらに、今も私のバリアを破るために、三本の足で踏み込んでいるため、力は増すばかり。
こいつの元々の力に加えこの三本目の足が爆発的な威力を出している。現に、攻撃を受け止めただけで足元一帯の地面が陥没してしまっている。それに、バリアにもどんどんひびが。
このままじゃ……
「……あん? おのれこの力……」
「離れなさい! "水の鞭<アックウィップ>"」
そこへ、横槍が入る。自在に動く水の鞭は悪魔を牽制するように割り込み、悪魔の頬に一発ビンタ。一瞬戸惑った悪魔……その隙をついて、水の鞭は私の体に巻き付き、私を後方へと引っ張る。
その場からの離脱に、成功する。
「リーさん!」
「オルちゃん! ありがと」
危なかった……あのままだと、確実にバリアは破壊されていただろう。しかも、バリアに力を回しすぎて反撃に力を回す余裕がなかった。
やっぱり、その辺の雑魚悪魔とはレベルが違う!
「今のは……純粋な天使の力じゃねえな。はは、面白いのぉ! おのれらまとめてミンチにしちゃる!」
「おい、聞こえなかったのか?」
どうやら、私が天使であることにも気づかれたらしい。悪魔は愉快だと言わんばかりに、声を弾ませるが……そこに、冷たい声が挟み込まれる。
思わず、背筋が震えてしまうほどの。その声の主は……
「お前の相手は僕だと言ったはずだ。さっきの話、聞いてなかったのか? それとも……話の内容がわからないほど、悪魔、いや、お前の頭は空っぽなのか?」
「……あぁぁー……?」
冷たい声で挑発を続けるのは、他ならぬエドワードさんだ。さっきまでの爽やかガイはどこへいったの?
その挑発を受け、悪魔の視線はエドワードへと注がれる。その目は血走り、今にも切れそうなほどに額に血管が浮き出ている。見てる方が心配になってくる、悪魔なのに。
鼻息荒く、金棒を持ち直す。見た目にもかなり重いとわかるそれを、軽々肩へと乗せる。
「おのれそんなに死に急ぎたいんか……いいじゃろう。だったらこのオニヘイ様が、おのれをミンチにしちゃるわ!!」
吠える悪魔は、名乗る。自らのことをオニヘイという名で。オニヘイって、やっぱり鬼じゃないか。
直後に、魔力が膨れ上がる。挑発が怒りへと変わり、矛先がエドワードさんへと向けられる。これは……ヤバくない?




