連れていかれた人達
「それで、連れていかれた人達は、どこへ?」
ここでない、どこかに連れていれた女性達。行き先は一体、どこなのか。残された人達は、それを把握しているのか。
「おそらくは、瓦礫や木材を運ばされていた場所に。確証はないが、そこで、連れていかれた人達を見た気がする。ここから東だ」
ここから、瓦礫や木材をを運ばされていた人が言うには、そこにいる可能性が高いとのことだ。
確証はない、か。本当にそこにいるかわからないし、本当だとしても、悪魔達はここの人達と、女性達を会わせまいとしているのだろう。
でも、他に宛もない。何より、連れていかれた女性じゃなくても、そこに人がいるのは確かなようだ。行ってみる価値は、ある。
東、か。今までとは違い、次なる目的地がはっきりした。これまでは、行く宛もなくただ、魔力がある方向へ旅を続けていたんだから。魔力がある場所、つまり悪魔がいるだろう場所に、捕らえられた人がいると思っていたからだ。
「そうですか。……安心してください。私達で、彼女達を必ず連れ戻しますから」
「そ、それは……ありがたい話ですが……」
「安心なさい。これでも私達、数々の修羅場ってやつを潜ってますのよ! そんじょそこらの悪魔には負けませんわ」
どこからその自信が出てくるのか、大きな胸を張るオルちゃんの言葉に、驚いていたドーズさんは口を閉じる。現に、ついさっき五体の悪魔を倒している場面を見ているのだ。
嘘や虚勢を張っているわけではない、というのは伝わっただろう。それでも、果たして子供に任せていいものか……彼らの遠慮が見える中で、オルちゃんが静かに私に囁いてきた。
「で、どうしますの?」
「え? どうって?」
「この方達ですわ。まさかここにほっぽっていくわけにもいきませんし、かといってこの人数で移動するのは……」
「あっ……」
言われて、気づく。そうだ、そのこと考えてなかった。
オルちゃんの言うように、せっかく解放した人達をここに置いていくことは出来ない。またいつ、奴らに襲われるともわからないし。
かといって、この人数での移動はさすがに厳しいだろう。もし途中で襲われた時、私とオルちゃんだけでこの人数を庇うことは出来ないし。
どうしようか考えていると、ドーズさんが口を開いた。
「そういえば風の噂で聞いたのですが、こうして捕まった人達を助け、保護し匿っている組織があるとか」
「組織……?」
ドーズさんが言うには、彼らのように悪魔に捕まり奴隷にされている人達を救い、その上で助けた人達を保護している組織があるのだという。
「まあ! 初耳ですわ!」
確かに。これまで半年旅をしてきたけど、そういう組織の情報は聞いたことがない。単に、情報源がなかっただけだけど。本当か噂か、どちらともわからない。
でも、例え噂だとしても……一筋の希望が、見えた。
「その組織……詳しくわかりませんか?」
さすがに、『組織』という情報だけでは何もわからない。精々、組織という団体ということはそれなりの人数がいる、ということがわかるくらいだ。
「さあ……なにぶん、噂話で聞いたくらいですから」
やはり、噂話だと確証と呼べるものもないか。せめて少しでも手がかりがあればいいんだけど……
「その話なら、少し詳しいかもしれない」
と、その時集団の中から声が上がる。人をかきわけ現れたのは、白髪を肩まで切り揃えた、背の高い男の人だった。
現れた青年は、一目で言うなら爽やか、が似合う。あんな労働を強いられていた後だというのにその顔からは疲労の様子は見えなかった。
そして青年は、ドーズさんの隣に。
「あなたは?」
私の問い掛けに、答えたのは彼の隣にいたドーズさん。
「こやつはエドワード。わしの孫です」
「どうも、エドワード・アルスカンです。よろしく」
ドーズさんの紹介を受け、自ら自己紹介をしてから笑みを見せる。その笑顔は何だかキラキラしている。だって背景に花が見えるもん。ふはぁ、爽やかぁ……
何だか、昔アカリちゃんから借りた本……少女マンガっていうのに、こんな感じの男の人いたよ。本の中から出てきたんじゃないかってくらい、まんまだよ。キラキラが人の形してるみたいだよ。
……ま、それはそれとして、と。
「はい、よろしくお願いします。それで、さっきの話……『組織』について少し詳しいかもって」
もしこれが本当なら、それは大きな手がかりとなるだろう。そこまで彼らを連れていくことが出来れば、組織の人達に頼んで安全に保護してもらえるだろう。
「えぇ。多分、僕はその組織の人と会ったんです。確か一月ほど前……ちょうど一人で作業していた時だ。辺りには誰もいなくて、珍しく悪魔も監視していなかった。今思えば、そのタイミングを狙って来たのかも」
思い出すように、エドワードさんはぽつぽつと話し始める。
「どこからどうやってここに来たのか……そこにいたのは、見たこともない綺麗な女の人だった。そうだ、ちょうどキミみたいな綺麗な金髪を腰まで伸ばしてて、瞳はエメラルドグリーンだった。もしかして知り合いとか?」
茶髪と混ざってはいるけど、私と同じ金髪……そしてエメラルドグリーンの瞳。そんな珍しい特徴と合致しているのだから、何か関係性があるのかと、エドワードさんは私を見る。
私はその問い掛けに、首を振って否定する。が……その特徴に、思い当たる節はある。金髪、そしてエメラルドの瞳。
その特徴に一致する、女性。その正体はまさか……
「その時、言われたんだ。もう少し辛抱してほしい、必ず助けるから、と。『私達』や『組織』と言っていたから、今の話と同一っていう確証はないけど可能性はあるよ」
「エドワード、何故今までその話を黙っておったのじゃ」
どうやら、ドーズさん達も初めて聞いた話だったらしい。怒っている……というわけではないが少しだけ責めるような口調。それに、エドワードさんは言いづらそうに声のトーンを下げる。
「……その人、応援を呼んでくるって言ってここから出ていこうとしたんだ。その時運悪く……悪魔に見つかって。目の前で……」
言うのが辛いというのが伝わってくる悲痛な表情。そしてその内容に……全ては言われずとも、その人がどうなったのか、想像はついた。
「その人、最後まで抵抗してたんだ。神力とも違う、不思議な力で……それに、背中に白い翼が生えてた。まるで、天使みたいな……きっと、キミと同じ」
背中に白い翼……その説明で、私は疑惑が確証に変わるのを感じた。エドワードさんも確信したのか、私を見る。
やっぱり、その見たこともない女の人というのは……天使だ!




