太陽みたいなあの子
その後、『握力少女』として持ち上げられてしまった私だが、何とか本当のことを話して落ち着かせることができた。言葉じゃ聞いてくれないので、手っ取り早く天使の翼を見せた。楽だった。
私は天使と人間のハーフ。そして今のは、神力でも握力でもなく、天使の力だから神封錠の影響を受けなかったのだと。
本当のことを話しても、気味悪がられることはなかった。状況が状況だからかもしれないけど、こんなにあっさり受け入れてもらえるなんて。何だか、拍子抜けした感じだ。
……こんなことなら、もっと早くアカリちゃんに話しておくんだったな。
『リーシャ、何か悩んでる? ……もう、それくらいわかるってば! 無理して話さなくてもいいけどさ。話したい時に、話してくれればいいよ! 私達親友なんだから!』
いつだったか、私が悩んでる時……そう言ってくれたこともあったっけな。
……っと、感傷に浸ってる場合じゃない。先にやることがある。それは……
「もう、さっきはいきなり何てこと言い出すのオルちゃん」
隣でのんきに笑っている、大嘘をついたこの子に抗議しなくては。
「え? あははー、ちょっとした茶目っ気ですわ!」
そりゃ、緊迫した空気をほぐすためにちょっとした茶目っ気は必要だろうけど、ちょっとどころじゃないよ。冗談でも普通に怖いよ。
三か月一緒に旅してたスカイくんも、目を輝かせてたし。子供だからそういうのはすぐに信じちゃうんだから、勘弁してよ。
旅の途中にも諸々あったせいで、私に対してのスカイくんの評価が『お腹の緩い握力少女』になってる気がするんだけど。
……あれ、私の女としての尊厳って一体。
「こっほん!」
と、とにかくだ。話を戻そう。
ざっと見たところ、ここにいるのは20人前後といったところか。一つの村の人口にしては少ない気がする。見たところ神力学園の生徒もいるし、外から連れてこられた人もいるならなおさらだ。
そこでふと……私はある違和感に気付いた。
「あの……女性の方は、いないんですか?」
そう、見渡して気付いたのだが……ここには、女の人がいない。小さな女の子から、お年寄りまで……ここには、"女"がいなかった。
直後、ドーズさんやみんなは、顔を曇らせる。
「彼女らは……連れていかれました。あいつらに」
あいつらに連れていかれた。あいつらとは、考えるまでもないだろう。
「奴ら、若い者から年老いた者まで、女であれば見境なく……!」
女であれば見境なく、か……それに何か、意味があるのだろうか?
考えたくはないけど、何かの生贄とか、慰め者とか……まあ、悪魔が人間の女を"そういう対象"として見てるかは知らないけど、そういう風にまず、考えてしまう。
女は連れていかれ、残る男達はここで働かされている、というわけか。
「……貴方達は、ここで何をさせられていたんですの?」
「……さあ。それは、わかりません。ただ、瓦礫や木材……それらを集めさせられ、ある程度の量になったらとある場所へと持っていくのです」
ここで何をさせられていたのか。それすらわからず、ただ言われるがままに働かされていたと言う。目的のわからない労働が、ここの人達を苦しめていたんだ。
働かされていたことを思い出しているのか、みんな悔しそうな顔をしている。……でも、それは私の考えているのとはは違った理由なようだ。
「くそっ……俺達のことより、連れてかれた奴らの方が心配だ!」
それは、自分達の辛さではない。それよりも、連れていかれた女性達を気遣うものだった。
それに同調するようにみんなも声を出したり、頷いたりしている。自分達も苦しい目にあっていたのに、それよりもまず連れていかれた人達を心配するなんて。この人達は、強いな。
「あの子も、無事かどうか……」
「あの子?」
ふと、聞こえた『あの子』という単語。女性達のことはみんな心配しているようだが、その中でも特に気にしている人物がいるということだ。
しかもあの子ってことは、子供ということ……?
「あぁ。あの子は、元々はこの村の子じゃないんだ。連れてこられた子でな。こんな状況で、苦しくくじけそうになった時……あの子の笑顔に救われたんだ。活発で、自分も辛いはずなのにみんなを元気づけてくれてよ」
「そうさ。あの子は、俺達にとって太陽みてえな存在さ」
そう話す男性達の表情は、優しいものだった。その言葉の中に、確かな温かさがあった。
それほど、みんなにとっての元気の活力……彼らが言うように、太陽みたいな存在だった子だったということか。
太陽、か。まるで、私にとっての太陽……アカリちゃんのようだ。
神力学園に入ったばかりの私は、誰にも心を開くつもりはなかった。それでも学園に通ったのは、カーリャさんに言われたからだけど。
家族がいなくなった私に、カーリャさんはすごくよく接してくれた。そのおかげもあって、多少の傷は癒えた。
でも……大切な存在を作るのが、それを失うかもしれないのが、怖かったんだ。だから私は、カーリャさん以外には心を閉ざした。そのつもりだった。
それをアカリちゃんは、開けてくれた。
正直最初は、迷惑だった。無視したこともあったし、冷たく当たったこともある。でも、いくら冷たい態度を示しても、ズカズカかと私の中に入り込んでた。
アカリちゃんのおかげで私には友達が出来たし……笑うことが出来た。アカリちゃんには色々なものを貰った。貰ってばかりで、最期までアカリちゃんに何も返せなかったけど。
そんな、私にとってのアカリちゃんのような存在が……ここの人達にも、いたようだ。
ただでさえ過酷な環境下。その上、みんなの太陽のような存在を奪われ、肉体的にも精神的にも参っていたことだろう。




