神封錠
それにしても……変に有名人になっちゃった気がするなぁ。べ、別にそれで悪い気はしないけどね。
「あぁ間違いない! 『おかしな笑い方の少女』と『子連れの少女二人』って話にもぴったりだ!」
……って、ちょっと待って! 今何て言った!? 何か変な尾ひれが付いてる! いや、尾ひれって言っても特徴自体は間違ってはないんだけど……
でも、『おかしな笑い方の少女』(オルちゃんのことだろう)はともかく、『子連れの少女二人』ってのは完全に誤解を生むと思うんだけど! 誰がこの話流したやつ!
神力学園の時といい、こういった二つ名って流行ってるの? この世界ってそういうの好きなの?
学園にいた頃は私は"空腹の魔女"と呼ばれ、オルちゃんは"爆炎の魔女"と呼ばれ……なんだろう、学園にいる頃は、まだそれなりに恥ずかしい程度だったけど……今はすごく恥ずかしい!
「「「"双翼の星"! "双翼の星"! "双翼の星"!」」」
「ぬぅううう……!」
盛り上がる人々は、その名前を連呼する。もちろんその行為に悪気はなく、純粋にエールのようなものとして言っているだけだろう。
けど……は、恥ずかしいぃ! そう何度も連呼しないでぇ!
「リー姉ちゃん何で頭抱えて転げてるの? お腹だけじゃなくて頭痛くなった?」
頭を抱えて転げ回る私に、スカイくんから鋭い一言。そこに悪意がない分、余計にダメージは大きい。
……落ち着いくまで、数分かかった。
「こ、こほん!」
と、とにかくだ。旅を始めて半年……スカイくんを見つけてから三か月。働かされていたという状況であったとはいえ、ついに生きている人達を見つけることが出来た。
そのことを喜ばしく思っていると、先ほどの老人が前に出て、一礼する。白いヒゲを生やし、肉付きもなく骨が分かるほどか細く弱々しい体をした老人……他の人達も、目に見えて弱っているのがわかる。
「この度は、お助け頂きお礼を申し上げる。私はこの村で村長をしている……いや、していた者です。ドーズ・アルスカンと申します」
私達の前に立ったかと思えば、開口一番に告げたのはお礼。次いで細目をさらに閉じ、頭を下げる老人……ドーズさん。
突然のことに呆気に取られてしまったが、その姿に、私は慌ててしまう。それに、気付けば他のみんなも頭を下げているではないか。
「そ、そんな! 頭を上げてください! むしろ、こんなに遅くなってしまって……」
もっと早く来れれば、みんなをこんなに長く苦しめることはなかった。だから、感謝されることなんて……
「遅いことなど。力のない我々にとって、“双翼の星”……貴女方は希望でした。死のうと考える者がいたほどに辛い日々でしたが……どのような状況にあっても自ら死を選ぶなど愚かなこと。生きていれば、いつか報われる。希望を抱けば、生きる目的になる。情けない話ですが、その希望にすがって日々を生きるしか道はありませんでした」
上げた頭を再び下げ、言葉を述べる。その台詞の中には、きっと今の言葉では語りきれなかった苦痛や悔しさが、当然あったのだろう。
老若男女関係なく、容赦なく労働力に使う悪魔達。ひどいことをする。
そこでふと、気づく。彼ら全員の手首に、何やら怪しく光るものが付いているのを。手首には、銀色に鈍く輝く手錠が繋がっていて、手の自由を奪っていた。
「これは……」
人々を奴隷として繋ぎ留める鉄の枷。……しかし、これの役目はそれだけではないらしい。
「もしかして、これが噂に聞く……?」
オルちゃんが、手錠を見ながら一人つぶやく。いつだったか、悪魔達が話していたものだ。人間を働かせるために、つけているものがあると。
これには、単なる手錠として以上の役割がある。それは……
「『神封錠』<しんふうじょう>と、我々は呼んでいます。これはどうやら神力を無効果する力があるようなのです。その硬度は鉄以上、一度付けられれば、鍵無くして外すことは不可能」
神力を無効果する手錠……『神封錠』。
文字通り、神力を封じる錠。神力を使える人間は、これを付けられると一切の神力を使えなくなるようだ。どんなに強い力を持っていても。
悪魔達は、捕らえた人間に対し、神力を使える使えない関係なしにこれを付けていく。神力を封じることが出来るし、もちろん単に手の自由を奪うことが出来るからだ。
ここには、捕らえられ連れてこられたのか神力学園で見かけた人だっている。彼らがおとなしくしているのは、神力が使えなくなってしまっているからだろう。
神力を封じるなんてどんな仕掛けがあるのかはわからないけど……おそらくは、ヒロトの"神力を打ち消す"神力。いや、魔力と関係があるのだろう。
その力を、神封錠として応用しているってことだろう。
「待ってて。今、外すわ」
そう言って、私はまずドーズさんの手首の自由を奪っている神封錠に触れる。確かに、これは単なる力だけじゃびくともしないようだ。
ドーズさん含めみんなは不思議そうに見ていたが、とにかく私は天力を集中させる。
「……えいっ」
手を天使の力が包み込んでいき……やがて、パキッ、と何かが壊れた音が鳴る。すると、今まで外れなかった手枷が、簡単に外れたのだ。
一瞬、何が起きたかわからないといった雰囲気……だが、次第に何が起こったかを理解したのか、周りから歓声があがる。
「はい、じゃあみんなの外すから、順番に並んでください!」
戸惑う人達だが、ひとまずは手錠から自由にさせないと。そのためにみんなに声を掛けるが、みんなは目を輝かせて私を囲むばかり。
「すげー! 今のどうやったんだ!?」
「めっちゃ怪力!? いやでも、めちゃくちゃ固いんだぞ?」
「凄腕の神力使いとか?」
「これには神力は通用しないって言ってたろ? 付けられたら使えなくなるどころか、触ってもダメ。外部からの神力も通用しないのにどうやって?」
「やっぱり、超握力あるんだって!」
「あ、いや、あの……」
困る私をよそに、みんなで様々な口論をし始めてしまった。と、とにかくみんなに落ち着いてもらわないと……あわわ。
今の私は、きっと目がぐるぐるになっていることだろう。
これは神力じゃなければ、握力でもない。唯一魔力に干渉できる力、天力だからなんだけど……それを話せる雰囲気ではない。
私はもう、天使だってことを隠してるわけじゃない。このご時世だ、天使だってことで変な目で見られることはないだろうし、悪魔と戦ってるとわかればむしろ好意的に受け入れてくれるかもしれない。
この状況を収めるには……いっそ、天使の翼でも見せてしまおうか? うーん、荒っぽいけどそれくらいしか……
「静粛に! この方をどなたと心得ますの!」
そこへ、妙に芝居がかった口調で口を開くのはオルちゃんだ。フード付きのマントをバサッ、と手で払い、変なポーズまでつけている。オルちゃんはこういうのが好きなのだ。
ともあれ、オルちゃんが説明してくれようとしているのはわかった。この方ってのは大袈裟だけど、任せるとしよう。オルちゃんは説明下手なところがあるけど、この際伝われば何でも……
「彼女こそ……スーパー握力を持つ女、リーシャ・テルマニン! 人間の頭など、卵のように握り潰せますわ!」
「よくない! いや、何その説明! 違う違う! 嘘ですよ!?」
天使の力を持っている、とか不思議な力がある、とかうまいこと言ってくれるのかと思ったら、とんでもないこと言い出したよこの子!
何てこと言ってるの! 何その説明! 怖いよ!
ほら、みんな「おぉ~」って感心してるじゃん! 信じちゃってるじゃん!
「リー姉ちゃん、スゲェ……!」
「違うからねスカイくん!?」
ここにも騙された純粋な子供が一人……!
『神封錠』ですが、某海賊マンガの、海の力を持つ石……あれの手錠バージョンをイメージしてください!




