初めて見つけた生存者たち
「……ありましたわ! 村ですわ!」
その言葉に、自然と足取りが速くなる。先に行ったオルちゃんは跳ねるように私達を呼ぶ。最後に街を訪れてから十日……ようやく、次の地にたどり着くことが出来た。
旅の途中でも食材をゲットすることは出来たが、やはり街や村に立ち寄って諸々を手に入れる必要がある。荒らされている後だから、そんなに期待出来るものは少ないけどね。
「わーい! 村だー!」
「しっ。静かに」
喜ぶスカイくんを、抑える。喜ぶ気持ちはわかるけど、あそこからは魔の気配がする。やはりここも、奴らに支配されているのか……!
「リーさん! リーさん!」
さて、早いところ奴らを倒さないと……と考えていたところへ、オルちゃんが慌てたようにやって来る。尋常な様子ではないけど……ど、どうしたんだろう?
「お、オルちゃん。静かに……」
「あっ……す、すみませ……って、そ、それどころではありませんわ! 人、人が……いますわ!」
「……えっ?」
これまで、あまり慌てる様子を見せることのなかったオルちゃんの口から出てきたのは、予想だにしない言葉だった。私は、しばらく耳を疑ったくらいだ。
だって、今までスカイくんを除いて、人っ子一人見つけることができなかったのに……
「ほ、ホントに!?」
「えぇ、こっちですわ!」
オルちゃんに続いて、足を進める。しばらく歩くと、そこから見下ろした場所に……村に、確かに人がいた。しかも一人や二人じゃない。何十人もの人がそこにはいた。
……だけど。
「……っ、あれ、は……」
目にしたのは、服ですらない、薄汚い布一枚を着せられ、何か物を運ばされ働いている。……いや、おそらく働かされている。表情が、それを物語っている。
……まるで、奴隷のような人達だった。
「ひどい……ですわね」
隣のオルちゃんも、その表情から苦々しく思っているのを感じる。働かされている人達はまさに奴隷だった。見ていて、気分が悪くなってくる。
「リー姉ちゃん? あれ……わっ」
後ろから、村を覗こうとするスカイくん。けど、この光景を見せるわけにはいかない。見せないため、彼の目を塞ぐ。
「わっ、わっ? せ、世界が闇に……!」
戸惑っているスカイくんは、とりあえずこのままにしておくとして。あまり見たくない光景だけど、改めて、働かされている人達を見る。
見たところ、あの場にいる悪魔は五体だけ。ただの一悪魔とはいえ、ただの人間には脅威だ。……他に隠れている可能性もあるけど、強い気配は感じない。
これなら、私達だけでも何とかできる……!
「……どうしますの?」
確認するように、オルちゃんの問いかけが届く。 問いかけとは言っても、その答えはすでに彼女の中にもあるようだ。
どうするだって? そりゃあもちろん……
「助けるに決まってる……!」
せっかく見つけた、生き延びている人達。奴隷のように働かされているにしても、彼らは生きている。何より、この状況を見逃すわけにはいかない。
「言うと思いましたわ。ふふ……なら、やっちまいますか。私に、考えがありますの」
やはりその答えは最初から私と同じだったようで、その口元にはうっすらと笑みを浮かべている。きっと、私が行かないって言っても一人で行ってたなこれは。
考えがあると、そう言ったオルちゃんは私に耳打ちをする。その作戦内容は……
「……大丈夫?」
それを聞いた私は、思わず眉を寄せる。それだと、オルちゃんだけが負担を負うことになるからだ。
そりゃあ、あの程度の悪魔、オルちゃんなら心配する必要すらないだろうけど……
「よゆー、ですわ!」
心配ないと、オルちゃんは手でVサインを作り大丈夫アピールを向けてくれた。その言葉と、表情だけで信用するには充分だ。
「よし……じゃ、行くよ」
スカイくんには、少し離れたところで待機していてもらう。さらに、自分で目を塞いでおくよう付け加える。こういうとき、言った通りにおとなしくしてくれているのは助かるものだ。
さて、やりますか。……両手に、意識を集中。自分の中の力を、天力を手のひらへと集めていく。
以前までは、"限定解除"しなければ扱えなかった天使の力。それが今は、平常時でも使うことが出来る。それがいいことなのかそれとも悪いことの前兆なのか、それはわからないけど。
……天力はまばゆく輝く光となって、両手を包み込む。あたたかで、とても安心する感覚。それが、徐々に形を成していく。それは、いわゆる弓の形。
左手を前に差し出し、右手を後ろに引く。形を、イメージしろ。頭の中に武器を思い描くことで、イメージが形となる。金色に輝く力は矢を作り出す。
今の私は、狩人。狙った獲物をこの矢で射る、狩人。
五体の悪魔……その内の一体に、狙いを定める。距離は離れているが、これを外すわけにはいかない。気づかれれば、作戦がパァだ。
「……"光の矢<ライトニングアロー>"!」
矢を放つ。それは一直線に、狙いを定めた悪魔へと向かっていく。名は体を表す、とはよく言ったものだ。技に名前を付けることで、そのイメージがスムーズに行えるというものだ。
もっとも、名前を付けようと提案したオルちゃんは……
『必殺技とか、名前があった方がかっこよくありませんか!?』
と言っていたので、そこまで考えていたのかはわからない。結果として、技のイメージが固まりやすくなったのは事実だ。
私の放った矢は狙いが狂うことなく、一体の悪魔の胸元に刺さる。悪魔にとっては、弱点の塊である天使の力を受け、雄叫びを上げながら消滅する。
それを見て混乱する悪魔達の背後に……颯爽とオルちゃんが飛び降り立った。着地は見事で、物音一つたてない。バレないように。
「さあ、スマートに決めますわよ!」
ま、声を出した時点でバレちゃったんだけど。
けど、もう関係ない。今バレても、もう悪魔の対処は間に合わない。オルちゃんの動きのほうが、早い!
「行きますわよ! "氷槍<アイシクルランサー>"!」
空気中に漂う水蒸気が一気に凍り、それらは槍の形を成していく。氷でできた槍が四本……それらが、狙いを定める。一体に、一本。充分すぎる殺傷力がある。
それが放たれたときには、もう終わっていた。氷の一撃が悪魔の腹部を貫通する。痛そうだ。
それらをまともに受けた悪魔達は……為す術もなかった。ただ、呻き声を上げるだけで、その場に倒れ……次々消滅していく。
程なくして、その場にいた悪魔は全滅した。
「やりましたわー!」
オルちゃんの作戦。それは、私が悪魔達の隙を作りその間に、オルちゃんが悪魔達を一掃するというものだった。一人で突っ込むという、危険なもの。
もちろんオルちゃん一人ならば何も問題はないが、問題があるとすれば人質を取られること。だから、そうなる前に一度悪魔の注意を別にそらす必要があった。
え、最初から私の矢で五体をいっぺんに串刺しにすればよかったって? ……できたらそうしてますけどね、へっ。
「やっぱすごいや」
先の氷の槍も、四本を正確に目標に撃ち込むなんて……誰にでもできることじゃない。私だって神力のコントロールには自信があるけど、天力とはまるで違う。しかも、こんな悪魔にも通用しないほど弱い。
オルちゃんは、学園にいた頃から相当な力を持ってたけど……人魔戦争を経て、さらに力を上げている。パワーも、スピードも、精度も。今じゃ私なんかじゃ届きもしないほどに。
元々AランクとCランクの差はあったけど、それはどんどん開いていった。そりゃあ、私には天力がありますけど、悔しいものは悔しい。
旅の道中で、体がなまらないためにオルちゃんと手合わせすることがある。怪我をしたとしても、天使の力で回復できるから問題なし、本気の手合わせ。
けど……正直、まだ一度も勝てていない。神力はもちろん、武術でも。天力を使っても、渡り合ってくる。強いんだ、この子。




