パートナー
……"奴ら"が人間界に、いや神力学園に攻めてきて、そして大切なものを失ったあの日。私の目の前で、大事な人を失ったあの日……忘れられない、あの日。
「……私があの時、怒りに我を忘れなければ……力を使い果たさなければ、アカリちゃんは……エルシャは……」
死ぬことはなかったかもしれない。助けられたかもしれない。毎日、夜が来る度そのことを考える。夢に見る。そして、後悔する。
あの日の自分の無力さに。
「……貴女が救えなかったから、彼女達は死んだと? それは違いますわ、少なくとも私はそう断言出来ます。誰が何と言おうと、違うと言ってやります。
……それにアカリさんだって、そんなことは言いませんわ。エルシャさんだって。それは貴女もわかっているはず」
……そう、彼女の言うようにきっと、アカリちゃんはそんなことは言わないだろう。でも……自分で自分が、許せなかった。
……こんなこと考えるなんて、未練がましいとはわかっているんだ。だっていくら考えていても……
「どれだけ後悔しても、過去には戻れませんわよ」
……そうだ。過去には、戻れない。だから今感じている後悔の念も、私が勝手に落ち込んでいるだけ。
そんなこと、わかってるんだ。わかってるけど……悔やんでも悔やみきれない。忘れようにも忘れられない。……どれだけ時間が過ぎても。
「それに、貴女怒りに我を忘れて……と言いましたね。けれど、亡くなった……いえ、殺されたお父様を侮辱されたのでしょう? 感情が高ぶらない方がどうかしてますわ」
そもそも私が力を使い果たしてしまった原因は、お父さんを殺した悪魔を前に感情の制御が効かなくなったからだ。頭から、理性が消えたのだ。
そのせいで……と、悔やむ私を彼女は、こうして慰めてくれる。責めることも、見捨てることもなく……今までずっと、こうして一緒にいてくれる。
「忘れる必要はありません。というか忘れられませんし……でも、だからといって貴女が一人で抱え込む必要はないんですのよ?」
慰める彼女の手は、私の頭の上にあり……頭を、撫でてくれる。その手は、女の子らしい小さな手でありながら、とても安心する。
「私だって何も出来なかった。……戦うことも守ることも出来ず、ただ地べたに這いつくばって見ていただけですもの。貴女がそんなに悔やむなら、私はどれだけ悔やめばいいのか」
あの時のことを思い出しているようだ。あの時は、彼女はキルデに行動を封じられていた。行動だけでなく、神力も。そのからくりは今でもわからないけど。
そのことを、自分を引き合いに出してまで、私を元気づけようとしている。彼女の優しさに、甘えてしまっている部分はあるのかもしれない。
「……この半年、ずっと一緒だった。貴女が背負っているものくらい、私にも背負わせてくださいな。一人では重くて押しつぶされそうでも、二人なら半分こで軽くなりますわ!」
正直な話、彼女がいなければ私はすでに壊れていただろう。それほどに、彼女の存在はとても大きくなっている。この明るい、髪の色のように青色……いや、青空のように包み込んでくれる笑顔に。
……ああもう。彼女には助けられてばっかりだな。
「……うん。ごめんね、いつも迷惑かけて……あぅっ」
いつも迷惑をかけてしまっていることに対して謝罪をするが、突如額に軽くではあるが痛みが走る。い、いきなりのことに変な声出ちゃった。
とっさに額を押さえ、何が起きたのか確認するために、俯いていた顔を上げる。すると……そこには、右手をこちらに向けて開いている彼女の姿があった。
「え? え?」
額を押さえつつ、何が起こったのかわからずにいると、じーっと私のことを見つめていた彼女が口を開く。
「これはデコピンですわ。デ、コ、ピ、ン」
「え、ええと……?」
「コホン。貴女……これだけは言っておきますわよ!」
デコピン……私の額を襲ったのはそれが原因らしい。だけどなぜデコピンをされたのか、全然わからない。混乱するばかりだ。
そこに答えを告げるように、軽く咳払いをして……ビシッと、彼女は私に指を指す。言いたいことがあると、言うけど……え? 何を? そんなに改まって?
「これは自論ですが! 人というのは、十回の謝罪より一回のお礼を言われた方が嬉しいんですのよ!」
「……ええと?」
「むっ、ですから! 私が聞きたいのは、謝罪なんてそんな言葉ではありませんわよ!」
謝罪ではなく感謝の言葉が嬉しい。いきなり何を言い出すんだとまたも混乱していたが、少しだけ考えるとそこでようやく、彼女が何を言いたいのかを理解した。
つまり彼女は、謝罪なんかじゃなくて……
「あ……うん、ごめ……じゃなくて、ありがとう。いつも私を助けてくれて」
そう、彼女に伝えるのは謝罪ではない…感謝だ。
こんな風に穏やかな気持ちにしてくれる彼女に、私はいろんなものをもらってばかりだ。感謝っていう言葉だけじゃなくて、何か返してあげたい。
「……あら、ふふ。ようやく笑ってくれましたね?」
「へ?」
感謝を告げ……しかし彼女から、指摘される。急に何を言うのかと疑問を抱いたが、……神力を使い窓を鏡のようにして、確認。すると、確かに私は、柔らかくではあるけど笑えていた。
決して作り物ではない、微笑みが。
「あれ以来、そんな風に笑った顔を見ていませんでしたから」
……そう、あの悲劇の日以来……私は、心の底から笑うことが出来なくなっていた。愛想笑いとかすることはあっても、本当に笑うということは……なくなった。
今にして思えば、彼女は……いつも、私のことを楽しませようと根気よく話しかけてくれていた。辛い旅の中でも、彼女の存在は確かにそこにあった。いつも私のことを、考えてくれていた。
「……本当に、いつもありがとうね。……オルちゃん」
今も、今までも……私ってば本当に、彼女に……オルちゃんに甘えてばかりだな。私も、包容力のある女になりたいよ。
「いいんですのよ。迷惑をかけても、甘えても……何せ、私達パートナーですもの。でしょ、リーさん」
……パートナー、か。……うん、私達、この半年一緒に旅をしてきたんだもんね。パートナーといって差し支えない関係のはずだよ。
……ちなみに、旅をしている最中のことだ。彼女から、呼び方に対しての提案があった。一緒に旅をしているというのに、いつまでも「オルテリアさん」「リーシャさん」とまるで他人行儀なのは変だと。
だから、私は彼女のことを「オルちゃん」、彼女は私のことを「リーさん」と呼び合うことになった。呼び方から、まずはお互いに歩み寄ることになったのだ。
呼び始めた当初は、どこか気恥ずかしさのようなものもあったけど、今となっては……抵抗も何もない。呼びやすく、それにちょっとかわいらしいあだ名だ。
逆もそうだ、なかなか呼ばれ始めはくすぐったくて慣れなかったけど、今は……彼女と私とを繋ぐ、大切な証だ。




