荒れ果てた世界で抗う者たち
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神力学園で起きた悲劇。その時は、突然と起こった。悪魔が、侵攻してきたのだ。人間達は立ち向かうも、悪魔の圧倒的な力の前に敗北を喫した。
傷ついていく者、倒れていく者、命を奪われてしまった者……起こった惨劇は消すことができず、惨敗という結果はこの世界を深い暗闇へと突き落とした。
私達の力は遠く及ばず、何一つとして大切なものを守ることは叶わなかった。
全てを消滅されそうになった最期の時……突如として、辺り一帯を覆うほどの謎の光が全てを包み込む。光に包まれたのは、一瞬……それでも気がついたときには、私は学園とは全く別の場所に飛ばされていた。
おそらくはみんなもそうだろう。
この謎の現象の正体、それはメルガディスや魔王が使ったものと同じ、空間転移だろう。……しかし、あの場のほぼ全員を、それぞれ別々の場所に転移させた彼女の力は、すさまじいものだ。
彼女のおかげで私は……私達は命からがら助かることが出来た。しかしその後の各自の状況は不明。状況はわからないが、各自それぞれの無事を祈るのみである。
私達の恩人、そして私の友達の勇敢な行動を、私は忘れない。……彼女は言った、人間はそんなにやわじゃない……と。ならば、悪魔たちに見せつけてやる。
……これは復讐ではない。ましてや命を無駄にする行為でも。……彼女は言った。生きて……と。
生きる……生きるために、戦う。生きて、彼女が守ろうとしたこの世界を取り戻す。そして、あのバカな魔王を一発ぶん殴ってやる。
私達の世界を……取り戻すために……
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ーーーここは人間の住まう世界、人間界。
しかし、ここにいるはずの人間の姿はない。変わりにあるのは、全てを包み込む闇。一寸の光もない、無限の闇。
廃墟と化した、街だった場所……整備されてない道……そこに、あちこちに徘徊しているのは魔物や魔獣と呼ばれる、魔の力を持った獣。
ひとえに、魔物、魔獣と区別はしても大した差はないとされる。言うなれば、言語を話すかどうか……ただ本能のままに唸る獣を魔物。言葉を話し知能がついた獣を魔獣、としている。
本来人間界に、魔物、魔獣が徘徊することなどない。そこにいるのはいないはずの生物、逆に人の気配はなく……建物は崩れ草木は枯れ、崩壊した街がそこにはあった。
それはこの街だけではない。世界中が今、このような事態に陥っている。それは何故か……
理由は一つ。人間界が、悪魔の侵攻を受けたためである。
半年前、世界は悪魔からの攻撃を受けた。それによって、神力と呼ばれる力を持つ人間と悪魔との激しい戦いが勃発。人間たちは激しい抵抗を見せるも、結果は敗北。
人類の敗北、それは大きな変化となった。世界規模で悪魔の侵攻が開始され、力を持たない人間達は為す術なく蹂躙された。そして、たちまち支配が始まる。
殺される者、生かされるも奴隷にされる者……悪魔により人間界は、いや人間は自由を奪われ支配されることとなった。
抵抗すれば殺され、悪魔の機嫌を損なえば殺され……時に魔物、魔獣の餌とされる。次第に、人間達から抵抗の意志は薄れ……やがては消えていった。
まさに、鳥かごに囚われ自由を奪われた鳥。希望を失った人間たちはもう、自分で羽ばたくことも出来はしない。
……だが、理不尽に支配されるこの世界で……悪魔にあらがう人間達も、確かに存在していた。
……一度は全てを失い、絶望した。いくら死を考えたかわからない。……だが、それでも"彼女"達は戦い続ける。
力も数も、戦力差は明らかだ。だからといって、それが諦める理由にはならない。もとよりそれは、覚悟の上だ。そんなもの、気にするな。
振り返っても、なくしたものはもう戻らない。失ったものはもう取り戻せない。過去は、なかったことにできない。
それでも戦うのは……生きるため。彼女は言われた。恩人に……友達に、「生きて」と。
その約束を守るために……生きるために、戦う。そして、親友が愛した男を殴るために、強大な力にも抗がってやる。絶対に、諦めない。
「……今日も、空は暗いな」
悪魔に支配されたあの日から、闇に覆われた空。そんな、青空が閉ざされてしまった空を見上げ……彼女は呟いた。こんな中にいては、気分も沈んでしまう。
だが、空は暗くとも……その心の火までは、陰ることはない。
「よっ、と」
金色と茶髪とが混ざりあった短髪を揺らし、彼女は立ち上がった。めちゃくちゃになってしまったこの体とも、最近はようやく付き合い方がわかってきた。
「そろそろ行きますの?」
そんな彼女にかけられる、もう一つの声。彼女と行動を共にする……頼もしい、パートナーだ。短く切り揃えられた、美しい青髪をなびかせ、問いかける。
「うん。一つの場所に留まり続けても、あいつらに見つかる可能性が高くなるしね。そろそろ……行こう」
「そうですわね。………ま、体も休めましたし。……ほら、行きますわよ」
そして、もう一人の……最後同行者へと声をかける。彼は、彼女らよりも遥かに年下で、ゆえに同行者のムードメーカー的な扱いになっている。
「うん、わかった!」
三人は、進む。どこへともわからぬ道を。
……ここには、理不尽な世界に抗う少女達がいた。




