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神殺しの弾丸  作者: 白い彗星
最弱と最強の出会い
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未来へ向かって



-あの最悪の事件から三か月が経った。



 神力学園で起こった事件……それは世に"人魔戦争(じんませんそう)"と呼ばれ、それを期に全世界へと広がる悲劇の発端。闇は世界を……地上全てを呑み込んだのだ。



 神力学園での死闘。そして突如としての謎の光。それが晴れた頃には、その場にいた神力学園生徒らの姿は不思議と、ほとんどが消えていた。



 神力学園の無力化、それを期に地上は瞬く間に闇に覆われた。悪魔に抵抗する手段などなく、支配された街々に、かつて栄えたあの頃の賑わいはもうない。



 ある街はゴーストタウンと化し、またある街は魔物や魔獣の住み着く暗黒帯地帯へと変わっていった。



 力なき人間達に抗う術などなく、抵抗の権利すら与えられず蹂躙された。ある者は殺され、ある者は奴隷として生かされ……もはや、逆らう意志すら削がれていった。



 三か月前までは人々の笑う声で賑わっていたこの街も、もはやその影はない。建物は廃墟と化し、物は朽ち、人は消え……殺風景なこの街は、もはや街ではなくなっていた。



「うわぁあああん!」



 静かな街に響く一つの声。それは幼い少年の泣き声だった。ただ一人、泣きながら歩いている。だが気に掛ける者はいない。いるのは、この地を荒らす魔の者だけ。



「何だ、まだ生き残りがいたのか」



 幼子の声に反応し、一匹の獣が寄ってくる。大の大人でも丸のみに出来そうなほどの巨体が、少年をただ見下ろしている。



 黒く、弱者に圧倒的な力の差を与える存在……魔物が進化した姿、それが魔獣だ。



 その姿に、少年は泣くことも忘れ、ただ恐怖に震えている。



「ちょうどいい、腹の足しにしてやるか…」



 黒い毛並みは少年の心を恐怖に落とし、赤く光る目に睨まれると体が動かなくなる。その容貌は巨大な犬……いや狼と言って差し支えない。



 その口元に笑みを浮かべ、魔獣は口を広げる。その行為が示すのは、ただ一つだけだ。



 逃げなければ、殺される。……しかし、足は動かない。足が震え、腰が抜け、逃げる気力さえ失われている。このまま自分は、この獣の餌になってしまうのか……



 少年の心を、絶望が押しつぶしていく。



「ふふ、呪うなら、自分の運命をのろ……」



 少年へと、絶望的な言葉が告げられ……しかし、魔獣がその先を口にすることはなかった。



 今まさに、少年が食べられるというところだった。突如……魔獣に何かが飛来。それは光る何か、程度にしか少年には認識できなかったが、それがぶつかるや、魔獣は跡形もなく散ったのだ。



 つい今まで、自分を恐怖のどん底に陥れていた魔獣が、消えたのだ。その展開に、少年は思考が追い付かない。



「ふう……危ないところだった。キミ、怪我はない?」



 何が何だかわからない。自分は助かったのか、そうでないのか? ……困惑に頭を悩ませる少年に掛けられる声があった。声の主は、フードのついたマントを身に纏った人物。フードを被っているため、顔は隠れて見えない。



 この人物が魔獣を倒したのか? だが魔の者に逆らえる者などいない……大人でもそうなのだ。……それでも、目の前の人物が魔獣を倒したと、自分の命を救ってくれたのだと少年は察していた。



「う、うん……ありがとう、お姉ちゃん!」



 フードに隠れて顔は見えない。だが少年は、聞いた声からフードの人物を、女性と判断した。その判断は、間違ってはいなかった。



「まだ奴らの手に掛かってない人がいたんだね、良かった」



 ほっと、安心したような声。



 そこへ……突然に、ビュッ、と風が吹く。その風に逆らうこともなく、その人物の被っているフードが脱げてしまう。すると必然、その人物の髪が露になる。それは茶色と金色が混ざり合った、美しいショートヘアーであった。



 露になった髪……風になびく髪を押さえる、その人物の顔が露になる。



 右に茶色、左にエメラルドの瞳……いわゆるオッドアイだ。その瞳を持つ、あどけない表情をした少女は……辺りを見渡した。



「……うん、もう魔の気配は感じない。……人の気配も、感じないけど」



 少女は、悲しそうに瞳を伏せる。周りに危険がないことはわかったが、同時に人の気配がない……その確認に、悲しみを思ったのだろう。



 珍しい髪と瞳の色。今までに見たことがないその少女の姿に、少年は別の意味で動けなくなっていた。



「うん? どうしたの?」



「あ、なんでも……」



 じっと見つめていたことに気付かれたためか、少年は必死に誤魔化そうとする。まさかきれいだから見つめていた、なんて言えるはずもない。



 だから、話を切り替えるためにも、少年は素直に疑問をぶつけることにする。



「お姉ちゃん……誰?」



 当然の、質問。彼女が魔獣を倒したというのなら、それはとてもすごいことだ。



 その問いかけに、少女は……



「うん、私? ……んー……正義の味方? ……何だろうね、あはは」



 困ったように、笑う。何者か、少女自体もわかっていないのだ。だが少なくとも少年にとっては、自分の命を救ってくれた恩人、正義の味方も同じであった。



 ……ザッ……と。そこへ近づく足音が、一つ。影はどんどん近づいてくる。それに気付いた少年は怯え、少女の後ろに隠れる。まさか、また黒い獣が現れたのかと。



「ちょっと、いきなりどうしましたの?」



 しかしそこにあったのは、敵意などではなくまるでこちらを……性格には少女を心配するような声。



 恐る恐るその影を確認すると、そこには別の人物が立っていた。こちらも顔はフードで見えないが、声から同じく女性だろう。



「ごめんごめん、まだ生き残ってる子がいたみたいだから……」



「まあ!」



 生き残ってる子……それは、自分のことだろう。少年は若干の警戒を残しながらも、隠れていた体を現す。その姿を確認し、もう一人の女性は嬉しそうに駆け寄ってくる。



 こちらの方が背が高い。この少女よりも、年上の女性だろうか?



「それは何よりですわ。……でも、どうしますの? リーシャさん」



 フードの女性は、オッドアイの少女の名を呼ぶ。そう、リーシャ、と。



 ……彼女のその正体は、リーシャ・テルマニンであった。本来茶一色のはずの髪、それは金色が混ざり合い、変色していたのだ。その金色はまるで、天使時の時の金髪のよう。



 瞳にも同様に影響が現れ、右目は前の通りだが、左目がエメラルドグリーンへ変化してオッドアイになっている。そして、以前掛けていた眼鏡は、今は外されている。



「うーん……」



 生き残っていた人間の存在……その事実に、嬉しそうな声を出したもう一人の女性の質問に、リーシャは額に指を置いて考える。何を、考えているのか。



 ……それは、簡単だ。この子を、どうするか。……今の質問には、そんな意味が込められていたからだ。



 リーシャは、幼い少年を見やる。



 襲われた先程よりは安心しているのだろう。だが今も震え、頼りない印象を受ける。だがその瞳の中に、恐怖とは別にどこか強さが秘められているのを、リーシャは見た。



 それを見て、クスッと笑う。ここに置いていく……のは論外だ。安全な場所に連れていくのが一番だが、連れ回しても、弱い精神なら耐えられない。最悪、この子が落ち着くまでここで足止まっておかなければならない。


 ……だが。



「……一緒に、行こっか」



 この子の瞳に、余計な不安は不要に思えた。これまでにも魔物や魔獣に襲われてきた……その度に倒しては宛もない旅を繰り返してきたのだ。この子なら、それにも耐えられると、リーシャの直感が言っている。


 一緒に行くかと、その提案に、少年は暫し唖然とするが……次第に、表情を固めていく。



「……うん!」



 そして力強く、頷く。



「いいよね、オルテリアさん」



 二人のやり取りを見ていたもう一人の人物がフードを脱ぎ、その女性の整った顔が露になる。それに伴い、美しく輝く、肩まで伸びた青髪が風になびく。



「ま、ここに放っておくわけにもいきませんし……仕方ないですわね」



 もう一人の少女……オルテリアと呼ばれた少女は頷く。彼女、オルテリア・サシャターンは同い年であるリーシャよりも大人びた女性で、少年にとってまた、年上の女性としての違った印象を与えていた。



 彼女の、腰まで伸びていたはずの青色の髪は……今や肩の部分までバッサリと切られている。それは、彼女自ら選んだことであった。



 仕方ないと、告げる彼女のその言い方はぶっきらぼうながらも、その中には確かに優しさがうかがえる。リーシャと同じく、困っている人を放っておけないたちなのだ。



「えへへ、そんな言い方しちゃって……素直じゃないんだから、ツンデレリアさんは」



「だ、誰がツンデレリアですの!」



 オルテリアの、素直になれない性格には自然と笑みがこぼれる。そんなリーシャにからかわれ、微笑ましいやり取りをしながら……少女二人は、少年を連れて歩き出す。



 誰もが抗う力を失ったこの世界で、自分達の世界を取り戻すために。

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