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12話 少年クリストファとの探り合い


 右手の人差指をそっと立てる。

 すると風精霊(ウィント)の一匹が、かくれんぼを楽しむ悪戯っ子のような笑顔で屋敷内を先導してくれる。



「お嬢様はなぜ、人通りの少ない場所がわかるのですか?」


 背後に(はべ)るクリストファからそんな問い掛けが投げられたのは、定例になりつつある秘密の屋敷散策中だ。


 答えは簡単で、風に乗る風精霊(ウィント)たちから情報を集め、進行方向に人がいないか確かめていたのだ。


 クリストファには風精霊とのやり取りを悟られぬように、あらかじめ『見て来て』と伝える仕草の合図を決め、後は風精霊(ウィント)がボクに人がいるかいないかを伝えてくれる。


 幼いわりにこの少年、鋭い。


 背筋の奥からヒヤリと流れくる物を感じたけれど、これだけ一緒に行動しててれば遅かれ早かれ疑問に感じる事だろうと思いなおして冷静になる。

 人の多いフローレン家の屋敷内で、毎回誰ともすれ違わずに散歩ができているなんて不自然に思わない方がおかしいだろう。



 さて、どう答えたものか。


「クリストファは精霊を知ってる?」

「精霊……ですか?」


 精霊と意志疎通ができるなんて正直に答えてドン引かれても、この後の行動が取りにくくなる。かと言って、膨大な魔力を抑制するために手袋をつけてる事になっているのに、日常的に魔法を使っているなんて答えれば恐怖を生むかもしれない。

 魔力が暴走して大変な惨事を起こすのではないか、なんてこの小姓に思われたら貴重な外の散策と屋敷内を調査する時間が減ってしまう。


 人に見つからないだけならボクだけでもできるけれど、クリストファはフローレン家の屋敷で何がどう使われているのか、この部屋は何のための用途であそこにいる人達は普段こういった仕事をしている、などの情報に詳しい。それらを合わせて、侍従やメイド、料理人たちが囁く噂話を風精霊(ウィント)に運んできてもらい、屋敷内の状況がどんな感じになっているのかすり合わせている。


 どうして、たかが探索でここまで本気になっているか。もちろん、この散策には一日中室内にこもっているので気分転換というお題目もある。でも本題は自分の破滅ルートを回避する確率を少しでも上げるためだ。いざ、という時のために自分のお家事情を把握していた方がいいはずだ。



 さてさて、そんな屋敷内の常識人クリストファくんにとって精霊ってどんな存在なのか。

 精霊がこの世界でどんな扱いを受けているか、地道に探っていくしかない。


「精霊っておとぎ話とかによく出てくる、伝説上の生き物ですよね?」


「そうね」


 ここまでは想定内の答え。メイドのユナがよく持ってきてくれる本に、精霊たちは大抵クリストファが言ったような扱いを受けている。


「本で読んだの。精霊たちの中には魔法の残り香? を見極められる者もいるみたいなの」


「そうなのですか……それとお嬢様の人を避ける技能と何が関係してるのです?」


「精霊にできるなら私にもできないかなーって。ほら私って人より魔力が多いでしょ?」

 

 本当は魔力なしだけど。



「なんとなく人の気配? 魔力の残滓を読み取ってるってこと」


 ちなみに精霊が魔力の流れを読み取るのは事実だ。様々な精霊と交信した結果、彼らが魔力を敏感に感じ取っているのがわかる。更にいえば、自分と相性の合う魔力を吸い取って貯めておくのも可能だろう。それを上手く利用し、ボクに魔力を貯蔵できるような仕組み、そんな効果を持つ剣とか作れたらいいな、なんて思っているので近々試すつもりだ。



「なるほど……さすがです、お嬢様」

 

 感心するクリストファを横目に、俺は本命の話題を振る。


「精霊たちが見えたらなぁ。もっとすごいコトができそうなのに。精霊たちと会話ができる人っていないのかしらね」

 

 この言葉に対し、クリストファがどう反応するかが肝だ。

 異端的な内容を俺が吐いていたとしたら、わずかでも堅い空気が流れるはず。

 


「申し訳ありません。浅学ですので、そのような人物がいるかどうか。旦那様にお聞きになられてはいかがでしょうか?」



 ……この辺でこの話は切り替えた方がいいだろう。

 俺はクリストファの瞳に宿る怪しい光を察知した


「そうね。さて、質問に答えるのはここまでよクリストファ。次は私が質問をする番です」


 俺は前々から気になっていた内容を口にする。


貴方(あなた)には色々と屋敷内を案内してもらったわね。でもメイドや侍従、執事たちが住み込んでいる館は案内してもらってないわ」


 一拍置いて、要望を伝える。


「クリストファが住んでいるお部屋も見てみたいの」


 これには訳がある。俺はこの世界に来て、一般人の生活水準を知らない。

 貴族のご令嬢という生活しかしておらず、屋敷から出たのも一度だけ。せめて屋敷内の、住み込みで働く人々がどんな環境で日々を送っているのか興味があったのだ。



 このお願いに、いつもは無表情に近い小姓がやけに愛想よく笑った。



「本当はお嬢様のような高貴な方に私達の住まいなどをお見せするなど……ですがお嬢様が望むのであれば、ご案内いたします」




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