実戦経験の有無
四条要の言葉に釣られて振り向いたミラの前には殺戮部隊ターニャの姿。
もしもターニャがその気だったならば容易くミラを屠れたにもかかわらずターニャはあえてそうはしなかった。四条要はそのことに疑問を抱いたが、ミラは敵を視認すると同時に後方に飛び間合いをとりつつ詠唱を始める。
「火を司る精霊よ。契約の名において我の力となれ」
「よせ! お前が敵うような相手じゃない!」
「“火流弾”!」
四条要の言葉が耳に入るわけもなくミラはターニャに攻撃を仕掛ける。
――手加減などしなかった。
そもそも手加減できるだけの余裕なんてものはなかった。
ミラは攻撃後すぐに後悔したが、発動した魔法を都合よく打ち消せるわけもなく真っ直ぐに突き進むミラの炎弾はターニャに命中すると同時に激しく爆炎を巻き上げる。
「嘘でしょ……」
初の実戦で初の殺人。こんな事になるなど夢にも思わなかった。
――これは本当に現実なのだろうか?
燃え盛る人影を前に、ミラは脱力するようにその場にへたり込んだ。
「このバカ女! さっさとそこから逃げろ! 聞こえねぇーのか!?」
雑音のような男の喚き声。茫然自失となったミラの頭の中にはその言葉の意味がまるで入ってこなかった。
それよりも自分はなんでこんな所にいるんだろう。
ふわふわと宙に浮いた夢心地のような気分の中でミラは小さく息を吐く。
「わるく……なかったわ……」
そんなミラの耳元で不気味に囁く女の声。
――内臓を死神に撫でられた気分。
すぐさま我に返ったミラは現状を把握すべく慌てて立ち上がった。