EPILOGUE①
雪が大地を覆う北方の田舎町。
かつては哲学の聖地として栄えたこの地も盛者必衰の理が示す通り――今や人口の数百倍あるいは数千倍もの膨大な古書だけが残された廃れた町へと変貌しており、よほどの物好きでもない限り進んでこの地に根を下ろそうとする者はいなかった。だからこそ住民達は二年という月日が流れようとも素性が知れぬ男女がこの地を訪れた日の事をまるで昨日の出来事のように鮮明に記憶しており依然として変わらず客人のようにもてなした。
「ほれ、兄ちゃん。今日は熊の肉だ。さっき山で仕留めた新鮮なものだぞ」
「いつもありがとうございます。いつももらってばかりで申し訳ない」
「はははは、ギブアンドテイクってやつだ。チビ達の勉強見てもらってるしな」
「別にこのぐらい大したことじゃありませんよ」
「若いくせに謙遜するな。何かあれば遠慮なく言ってくれよ」
「ありがとうございます」
「せんせー。早く勉強教えてよ」
「ははは、引き留めて悪かったな。んじゃ、よろしく頼むわ」
「はい」
町での役割は教師。それは自ら望んだ事ではなかったが、他に適任者がいなかった事もあり気付けば半ば必然的にそうなっていた。
「どうしたの? そんなところでボーっとしちゃって。なにか考え事?」
「ここはいい町だと思ってな……」
「そうね。ここは本当にいい所だと思うわ。私の故郷にはちょっと劣るけどね」
当たり前となった平和を享受し始めてから抱く後悔。
戦争という大義名分の名のもとに自分はこうした町をいくつ滅ぼしてきただろう。
ふとそんな事を考えてしまう自分が嫌になる。
「ひーふーみー……よし、全員揃ってるな。まだ授業の準備ができてないから先に離れで待っといてくれ」
「りょーかい。んじゃ、チビッ子達よ。私について参れ!」
姉御肌の女は子供たちを引き連れ教室代わりに使っている空き家へと向かう。
男はそれを見送った後で教材を取りに戻ろうと家のドアノブに手をかける。
「――――ッ」
背中を突き刺すような視線。男は只ならぬ気配に振り返った。




