少女の自尊心
「ハハハハハ、弱すぎて相手にされねーとかどんだけだよ」
馬鹿にしたような笑い声。
ミラは四条要を睨みつけるも、その瞳は涙で潤んでいた。
「げっ、泣きやがった」
「泣いてないッ!」
「嘘つけ。どう見ても泣いてるだろ」
「泣いてないッ!!」
腕で顔を覆いながらミラは怒りをぶつけるようにして四条要の言葉を否定する。
実際に泣いているかどうかはミラ自身よく分かっていたが、たとえ死んでも人前で涙を見せるなんて醜態を晒したくないという自尊心が安易にそれを認めようとはしなかった。
「わかったわかった、お前は泣いてない。それでいいだろ。まずは俺の体に刺さった釘を抜いてくれ」
「なんで……?」
「なんでってお前、ここで死にたいのか?」
「それは嫌」
「ならさっさと抜いてくれ」
「じゃあ、謝って」
「は……?」
「さっきは失礼なこと言ってごめんなさいって」
「てめえふざけるなよ! 少しは状況ってものを考え――……」
「あっそ。じゃあ自分で抜けば?」
小娘の場違い過ぎる言動に四条要は言葉を失った。
根本的に勘違いをしていた。理屈ではなかったのだ。
最悪は死んでもおかしくない状況でちっぽけな面子を重んじる姿勢――。
戦場ではまず間違いなく早死にするタイプ。
そう悟った四条要は共倒れしたくない一心で自らの主張の一切を放棄した。
「……俺が悪かった」
「俺が悪かったじゃなくてごめんないさいでしょ?」
「こいつ……」
「なんだって?」
「ご、め、ん、な、さ、い」
この小娘は殺す。あとで必ずぶち殺す。
自分にそう言い聞かせることで四条要は不満いっぱいの心を宥めた。
どういった経緯があって小娘やら聖騎士が現世から隔離されたこの地に足を踏み入れたのかは皆目見当がつかなかったが、少なくても連中を利用することで外の空気が吸えるのは間違いない。
だからこそプライドを捨てた。すべては己の自由を確保する為に。
「ギリギリ及第点ってとこね」
「そーっすか。じゃあ、はやく釘を抜いてくれると嬉しいなぁ~」
「仕方ないわね」
「――――ッ! おい馬鹿気付け! 後ろだ!」