ダヴィンチの頼み
「最後に一つ頼まれてくれないか?」
「乗りかかった船だ。聞いてやるよ」
「すまんが、あの剣を破壊してくれ……。あれは――……」
ダヴィンチの言葉を遮るように浮遊を始める黄金の剣。
その原理は不明だったが、剣からは禍々しい瘴気が洩れ出し――渦を巻くようにして洞窟内全体を包み込んだ。
「おいおい、かなりやべえ感じだな」
一刻の猶予も許されないと断言できるほどの寒気。
最初に動いたのは黄金の剣から最も近いところにいた四条要だった。
「ぐっ……」
手刀で叩き割ろうと試みるもガラスのような結界に阻まれ近付くことすら儘ならない。
「カナメ君そこから離れて! 邪魔!」
四条要が慌てて離れると同時にネイロが魔法を発動させる。
「“虹色旋風”!」
この場にいる中では最も高い攻撃力を誇るネイロの魔法。
本来の威力の半分程度であったとしてもその威力は他の追従を許さない。
七色の風は瘴気を裂くようにして黄金の剣へと迫った。
「たのむぞ……」
風と結界の激突によって生じるスパーク。
結界に弾かれた風は暴走して洞窟内を縦横無尽に駆け巡り落石を招いた。
「……ダメ。破れない」
物理、魔法を問わず発動する強力な結界。
それは殺戮部隊の上位に位置する二人の力をもってしても壊せないほどの代物だった。
「あの剣を使え」
震える手で明後日の方角を指差すダヴィンチ。
「オルレアの剣……」
「結界を破れるのはおそらくアレだけだ」
「そうは言っても俺はオルレアと違って聖女の力なんざ使えないんだがな……」
無茶でもなんでもやるしかない。
地面に突き刺さったオルレアの剣を引き抜いた四条要は足元にクレーターができるぐらい勢いよく地面を蹴り、ノータイムで黄金の剣へと迫った。
「チッ……」
再三に渡って剣の破壊を阻止する万能結界。
強引な突破を試みたところで四条要の体は結界に弾き飛ばされた。
「くそが……」
時間の経過で明らかに濃くなりつつある瘴気。
本能的な不吉を感じさせる瘴気を洞窟外に出せば大惨事は免れない。
懲りずに再度の攻撃に臨もうとする四条要だったが、不意に片膝が地についた。
「…………ッ」
四条要の右足を覆うように瘴気の塊。
振り払おうにも瘴気は四条要の体にまとわりついて離れず、やがては浸食されるようにして足の自由がきかなくなった。
「カナメ君!」
「ダメだ。動かん……」
じわじわと体を乗っ取られていくような感じ――。
咄嗟に思いついたのは足を切断することだったが、そんな四条要の脳裏をよぎったのは弟子の顔。
合理的判断に徹しきれない自分に苛立ちを募らせながらも四条要は目を瞑り現状を打破しうる策を練る。
「くそっ……」
しかしそう都合良く妙案が浮かぶわけもなし。
やはり残された選択肢は足を斬り落として再生と同時に速攻。
気は進まなかったが、他に選択肢などない。
諦めるように息を吐いた四条要は剣先を自身の右足に向けた。
「貸して。ボクがやる」
四条要に覆い被さるように影を落とした人物はゆっくりとした口調でそう言った。




