増援
剣を振り下ろす直前に生じた出所不明の強風。
「ぐっ……!?」
意図せずダヴィンチの手から剣が抜け落ちた。
「なんだと……」
津波のように押し寄せる激痛。
恐る恐る自らの手を確認したダヴィンチは言葉を失った。
「馬鹿な…………」
真っ赤に染め上げられた両手。それが自分のものであるかどうかさえ疑わしい。
気持ちの上では否定したかったが、じわじわと染みるような痛みがそれは現実であることを如実に物語っていた。
「……そうか、お前なのか」
四条要とミラを追いかけるようにして現れた新手。
すべてを理解したダヴィンチは興奮交じりに口を開いた。
「やってくれたなッ! ウインド・ネイロ!」
「フフッ……ヒロイン登場にはちょうどいい場面だと思わない?」
「死に損ないが何をほざく!」
一見してそうだと分かる満身創痍。ポタポタと道しるべのように血を垂れ流すほどの重傷を負いながらもネイロは四条要の窮地を救ってみせた。
「四人の同胞を返り討ちにするとは流石だな」
「私を倒すつもりならその倍は用意しないとね」
「減らず口を……」
「まあ、ちょっと本気出したから疲れたけどね」
「最後に残ったのは俺一人か。まあいい。お前達を倒して帳尻を合わせるとしよう」
思わぬ不意打ちで両手を潰されたが、魔法を使う分には問題ない。
優先して倒すべきは強力な遠距離魔法を得意とするネイロ。
腑抜けた四条要など後回しでかまわない。
そう判断したダヴィンチが四条要から目を離した瞬間――……。
「ぐふッ……」
ダヴィンチの胸部を貫く手刀。
数分前までの動きが嘘のように思えるキレのある見事な一撃を受けたダヴィンチは口から鮮血が垂れ流すと、満足げな表情を浮かべて四条要の手を引き抜き大の字で倒れた。
「油断などあんたらしくもない」
「それはお互い様だろう。だが、これでよかったのかもしれん」
「……殺戮部隊が最も輝いていた頃に戻るんじゃなかったのか?」
「そのつもりだったが最後に迷ってしまった。本当は何がやりたかったのか……。大戦中は国の大義を信じ部隊を率いて敵を倒す事こそが俺の役割だった。だが戦争の終わりに差し掛かった頃から俺は目標を見失った。そんな中で出会ったのがあの剣だった」
時計が内蔵された風変わりな黄金の剣。
初見では意味不明だったが、今なら付属されてる時計の役割が理解できる。
「……それが過去に行くことを可能にする媒体か?」
「そうだ。我々にとっては未知の技術だが、剣と契約することでいくつかの能力を得られた。不死の無力化も得られた能力の一つだ」
「ずいぶんとまあ厄介な剣を見つけてくれたもんだな」
「そう言うな。俺にとっては希望だったんだ」
ここで退場するのは計算外。
ダヴィンチにとって初の敗北は心安らぐものだった。




