劣勢
「“火龍炎舞”!」
鉱石の仄かな明るさを一瞬で掻き消す眩光。
四条要を仕留めるあと一歩のところで直感を優先したダヴィンチはすぐにその場から退いた。
「……早いな。序列二位が認めただけのことはある」
直感を無視していれば殺されていたかもしれない。
口調にこそ余裕を感じられたが、ダヴィンチをしてそれは冷汗ものだった。
「不意を突いたつもりだったんだけど、さすがね」
ミラが繰り出した隕石のような飛び蹴りとダヴィンチの剣が激しく拮抗する。
――険しくなる双方の表情。
それはお互いが相手の力量を認めたからに他ならない。
「なるほど……」
その性質は火属性の近接型。魔法としてはシンプルこの上ない。
ただ厄介なのは常人ならば一瞬で火だるまになるであろう灼熱のような熱気。
これにはさすがのダヴィンチも顔をしかめた。
「“水の波動”!」
拮抗状態からダヴィンチは器用に魔法を発動させる。
――避けられるはずがない。
命中と同時に洞窟全体に広がる濃霧のような水蒸気。
ダメージらしいダメージこそ受けなかったものの、今の攻撃で限定魔法の威力を半減させられたミラは態勢を立て直すべくダヴィンチから距離を置いた。
「力は認めよう。だが、俺に挑むには少々若過ぎたな」
息を呑むように感じた死線。
振り向いたミラの腹部を金色の刃が貫く。
「悪く思うな。敵ある以上生かしておくには危険過ぎる」
死を意識する間もなく受けてしまった致命傷。
ダヴィンチが剣を引き抜くと、ミラの口からは一筋の鮮血が垂れ落ちた。
「…………ッ!」
余韻に浸る間もなく頬を掠める斬撃。
姿勢を戻したダヴィンチは次なる敵を見据える。
「傷を癒やす時間を稼いでくれた弟子にあの世で感謝するといい」
「ぬかせ!」
再び斬撃の応酬が始まるもその形勢はすでに決しつつあった。
ほぼ無傷のダヴィンチに対して偶発魔法で腹部に致命傷を負った状態で戦う四条要。
両者の差は剣を交えるごとに広がりを見せていった。
「……俺が買いかぶり過ぎたのか。まさかこの程度ではあるまい?」
ミラが致命傷を負ってからというもの明らかに鈍くなった四条要の動き。
事情を知らないダヴィンチが拍子抜けするのも無理からぬことだった。
「今のお前が相手なら策を弄する必要もなさそうだ」
「ぐはッ……」
「もう少しできる奴だと思っていたが、結局はお前も不死者であることの上にあぐらをかいた二流止まりだったか」
四条要の剣を弾き飛ばしたダヴィンチはそう言い捨て剣を振り上げる。
これで終わり。そう思うと自然と手に力が入った。




