猫の手
「じつに興味深い逸材だ。ゆえに残念だよ」
「あなたを止める。たとえこの命に代えても!」
「威勢がいいな。だが俺は君よりも強いぞ」
「そんなの関係ない」
魔法使い同士の戦いにおいて絶対はない。それは普遍的な常識だ。
しかし現実には絶対に等しい壁というものが確かに存在する。
ミラにとっては二人の師を筆頭に殺戮部隊がそれに該当したが、辛くも乗り越えてきた。
その自負を胸に最後の戦いに臨まんとミラは息巻く。
「おいっ」
「痛ッ!?」
「師匠である俺を差し置いてなぜお前が前に出る?」
「だからってチョップはないでしょ……」
「ダヴィンチは強い。お前じゃ返り討ちに遭うのが関の山だから援護しろ」
「またボクを邪魔者扱い……って、あれ?」
「誰が邪魔だと言った。援護しろと言ったんだ」
「カナメさん。それって……」
「勘違いするな、お前は弱い。今は猫の手でも借りたいってだけだ」
「ですよね~……」
意気消沈したミラは大人しく師の後ろに下がった。
糞という言葉が前に付くぐらい真面目な性分が災いしてかミラは四条要の言葉の真意をまるで理解していなかったが、本当に戦力外なら四条要がこの地にミラを連れて来ることはなかっただろう。
かつての自分がそうであったように安易に認めてやれば増長する年頃。
四条要があえて明言を避けたのは自らの苦い経験に基づいてのことだった。




