頂上決戦
「だから世界がどうなろうとかまわないと?」
「大事の前の小事だ。否定はしない」
「ならばアンタは俺の敵だ。殺してでも止めさせてもらうぞ」
「全破壊の準備はすでに最終段階に達しつつある。もはや手遅れだ」
「手遅れかどうかはこれから試してみるさ」
「やってみろ。お前に止められるのならなッ!」
息を吐くような魔力の放出。それは流れるようになめらかなものだった。
初動から発動までの時間は一秒に満たない。
それは四条要が過去に対峙したどの魔法使いよりも速かった。
「“水の波動!」
触手のように伸び縮みする水を召喚しての攻撃。
基礎魔法とは思えないレベルの速さと威力。
体感的には限定魔法の術者と何ら遜色がないと思えるほどだった。
「“土の波動”!」
続いてつららのように降り注ぐ鋭利な岩塊。
まるで複数の術者を同時に相手しているかのようだ。
「ちっ……」
防ぐか避けるかの二者択一。別段難しい話ではない。
そんな四条要の脳裏をふとよぎったのは弟子の横顔だった。
「……“事象の拒絶”!」
不死者である自身はともかく弟子は違う。
あらゆる可能性を考慮して四条要は最も無難な選択肢を選んだ。
「“火の波動”」
間髪入れずに次から次へと四条要に襲い掛かるダヴィンチの魔法。
四条要はそれらすべてを無力化しつつ敵の動きを注意深く観察した。
万が一にも自分の弱点を知られるようなことがあってはならない。
それは戦う上で大きな足枷となっていた。
「魔法の無力化……。実際に戦ってみると厄介なものだな」
「このまま戦えば魔力の削り合いになるぜ」
「それだとこちらが不利だ。悪いが戦い方を変えさせてもらおう」
「なに……?」
そう言ってダヴィンチが腰から抜いたのは金色に輝く剣。
初めてそれを見る四条要は当然のように特徴的な時計の部分を注視した。
「剣技も相当なものだと聞いている」
「学生時代の話だ。天才のアンタには劣るよ」
「それは好都合。悪いが負けられないのでな」
「おいおい、俺ぁ不死者だぜ。剣じゃ殺せないぞ」
「もちろん勝算はある。敵である俺の心配はしてくれるな」
「けっ、大した自信をお持ちのようで。それなら付き合ってやろう」
ダヴィンチに応じる形でオルレアの形見である剣を抜く四条要。
――剣を握るなど久しぶり。
不思議と剣は長年使い込んできたもののように四条要の手に馴染んだ。
「よし、ではいくぞ!」
「こいッ!」
両者の目付きが鋭くなるのと同時に怒涛の剣撃ラッシュ。
達人ともなれば相手の力量など数合斬り結べば大方わかる。
「ほお……これは……」
「ほぼ互角か……」
小休憩を挟むように距離を置く両者。
よほどのことがない限り剣での勝負は長期戦となるだろう。
そう思った直後に四条要は気付いた。そして思わず目を見開いた。




