再会
ゆるやかな傾斜が続く一本道。数分前から頻繁に起こる地震で生じる落石を煩わしく思いつつも、四条要は道標のように置かれた蝋燭に従い歩き頑丈そうな銅扉を叩いた。
「待っていたぞ。かつての友よ」
半壊した石造りの王座でくつろぎ待ち構えていたのは癖のある長髪をいじる男。
十年以上の歳月を隔てていることから四条要の目に映る男は幾分か老けて見えたが、本質的な変化はあまり感じさせない。
――ここで正解。
四条要が内心ほっとしたのは弟子がこの男と出くわさなかった事に対してだ。
「……相変わらず偉そうで安心したぜ」
「フッ、褒め言葉として受け取らせてもらうとしよう」
「別に褒めてるつもりはないんだがな。それよりも狙いはなんだ。お前のことだから自分達を見限った国に復讐だとかそんなちっぽけなもんじゃないんだろう?」
ダヴィンチほどの者が十年も燻る理由がその程度のはずがない。何かとんでもないことを思い描いているはずだ。
そのことに根拠なんてものはなかったが、四条要は確信に近い何かを感じていた。
「聞いてどうする。無駄な問答だと思うがね」
「だったらケチケチせずに教えろよ。どーせアンタの事だ。世界を滅ぼす以上にとんでもねえこと企んでるんだろう?」
「ククク、相変わらず鋭い男だ。敵である事が惜しいよ」
「十年も人を幽閉しといて今さら何を言ってやがる」
「誤解しているようだが俺はあの反乱に加担していない。文句があるなら地獄で序列三位にでも言うんだな」
「やはりそうか。でないとおかしいよな。もしもあの時アンタが反乱を指揮していたのなら反乱は成功に終わっていた。……違うか?」
「愚問だな。俺を誰だと思っている?」
僅かに残されたパズルのピースが完成したことで四条要は自分が封印された前後の事情をほぼ正確に理解するに至った。
――序列一位の遠征中に起こった出来事。
四条要とは違った意味でダヴィンチもまたとばっちりを受けた被害者だ。
組織の長とはいえ真実を知った以上、反乱の件で序列一位を責めることはお門違いだった。
「過去はどうであれ、ここ最近世界で起こる異常には関わってるんだろう?」
「関わっているというのは正しくない。正しくは俺が操ってるんだ」
「なんだと……?」
「十年も封印されると頭の回転が鈍るか。時空牢を思い出してみるといい」
余裕からかヒントを与えるダヴィンチ。
その言葉の真意を知るべく四条要は頭を働かせた。
「――――ッ」
すぐにピンときた。よもやとは思ったが否定などできるはずがない。
なぜなら四条要自身、身をもってそれが何であるかよくわかっているからだ。
「あの世界の法則はデタラメだが、恩恵は多くあった。例えばお前を封印したのは我々とは異なる起源をもつ異界の魔法をベースにしたものだ」
「それを解析した奴が言うとどんな夢物語も本当のことのように聞こえてくるな……」
「なぁに、お前を封印した術式など副産物にすぎんよ」
「あれが副産物とか笑えねえ冗談だ」
封印術式としては超強力。あれ以上はないと思えるぐらいの代物だった。
だがダヴィンチは鼻で笑った。四条要が知らないそれ以上があるということだ。
四条要はそのことに愕然としたが、ある意味ダヴィンチなら当然だろうと心の中で妙な納得を覚えてしまった。




