風帝
――東の洞窟。
そこはネイロが怪しいと踏んだ三つの洞窟の中でも特に当たりを強く感じた場所だった。
罠である可能性が高いという確信のもとネイロは警戒しつつ足を進める。
やがて外からの光は完全に絶たれ、頼みの綱といえば淡光を放つ洞窟内の鉱石だけとなり数十分あるいは数時間の時が流れたとさえ思えるほどの体感の果てにようやく辿り着いた。
「カナメ君とのデートはここもアリかな」
鍾乳洞が一面に広がる幻想的な空間。
待ち伏せするにはこれ以上の条件は望めない。
ネイロがそう思ったのと時を同じくして動き出した無数の気配。
「…………ッ」
そして退路を断つように背後で起こった落石。
その事から敵の狙いは明白。
ネイロは景観が崩れたことに舌打ちすると怒気を帯びた眼差しで敵を睨んだ。
「やはり罠か……」
戦力の分散――それすらも読まれていたのだ。
かつては曲者揃いの殺戮部隊を率いた絶対的なリーダー。
味方としては頼もしかったが、敵としては厄介な存在この上ない。
「待っていたぞ。序列六位“風帝”ウインド・ネイロ」
待ち構えていたのは男三人と女一人からなる四人の殺戮部隊。
加えてその背後には各々の傘下とみ見られる百人ほどの私兵が飢えた獣のような目付きでネイロを見ていた。
「えぇーと、見覚えのない顔ぶれね。どちら様かしら?」
「お初にお目にかかりますネイロさん。私達はあなたの後輩です」
「フン、序列六位か……まさか実在していたとはな」
「人を化物みたいに。礼儀がなってない後輩さんだこと」
「状況は見ての通りだ。恨みはないが狩らせてもらうぞ」
「フフッ、できるの? あなた達ごときに」
「多少腕が立つからといっていい気になるなよ。かかれッ!」
数の利を活かした人海戦術。
一人一人は無名だとはいえ気配から察するにそれなりの場数を踏んだ手練れ。
すぐさま状況を把握したネイロは敵を迎撃する。
「生命息吹く風の支配者よ。今こそ我に大いなる力を与えたまえ」
詠唱ありでの戦いなど忘れて久しい。
子供の時の記憶を思い起こすかのようだ。
強大過ぎるがゆえに自らの意思で封じた力。
よもや平和な時代にその封印を解く日が訪れようとは思いもしなかった。
だがそれもやむを得ない。すべては愛する人を守る為……。
――殺戮者としての再起。
その気迫は居合わせた者すべてに悪寒を感じさせた。




