運命の分かれ道
「まあ、ダヴィンチの相手は俺がするから安心しろ」
「当然でしょ。化物同士潰し合ってくれないとね~」
「てめえ、曲がりなりにも師匠を化物呼ばわりはねぇーだろ」
「そうは言ってもカナメさん普通じゃないし」
「冗談でも軽く傷つくぞ……」
「それなら私が慰めてあげようか?」
「三十路は黙ってろ」
「殺す」
「待て冗談だ。見た目はいいんだからまずはそうゆうとこ直せよ」
「直せば付き合ってくれる?」
「いや、それはちょっと……」
「だったら結婚とかでもいいわよ」
「おいおい……」
「そうゆうわけで東の洞窟は任せてちょーだい」
「ちょっと待て! 話はまだ――……」
「ハネムーンはどこにするか考えといてね」
一方的に自分の要求を押し付けて風となり消えるネイロ。
四条要のモチベーションは敵と戦うよりも前に大幅に削がれてしまった。
「ネイロさん普段はいい人なんだけどねぇ……」
「物好きな女だ。俺のどこがいいんだか……」
「カナメさんいい人じゃん。ぶっきらぼうで無礼な人ではあるけども」
「それは褒めてるのか? それとも貶してるのか?」
「両方」
「つくづくいい性格してやがるな」
「それはお互い様。前はこうじゃなかったから師匠に似てきたのかもね~」
「こいつ……」
その第一印象は最悪だった。しかしそれは今や笑い話にできるぐらい遠い昔話。
気付けばいつの間にかその関係は良好だといえるものになっており、ミラにとって四条要はよき理解者であり自慢の師。四条要にとってミラは嘱望の弟子となっていた。
それに加えて生来の性質が似通う二人。偶発魔法による心の繋がりもあってか、時折――性別が異なるもう一人の自分を見ているような錯覚を抱くほどだった。
「さてと、そろそろ真面目にやるとするか。北と西、お前はどっちがいい?」
「んー……ボクはねえ……」
運命の分かれ道。選んだ先が当たりかどうかは結果で判断すればいい。
なまじ半端な覚悟だったならば死に物狂いで思い悩んだことだろう。
そう思いつつミラは“なんとなく”で自分の行き先を決めた。
「……死ぬなよ」
「その予定はないから大丈夫。この戦いが終わったら聖騎士団に入団してあなた達二人を捕えてその功績で聖騎士団団長になる予定だからボクの予定を狂わせないでね」
「かわいくねえ女だ」
「ならボクもネイロさんみたいに男女の関係を希望した方がよかった?」
「悪いが貧乳は女としてみない主義なんだ」
「殺すッ!」
「おっと、今までで一番いいパンチだ。この戦いが終わったら俺をブン殴れるぐらい強くなってるかもな」
「絶対殴る! だから死なないでよッ!」
「誰に向かって言ってやがる。俺はお前の師匠だぞ」
最後に軽口を叩いて別れる師弟。その表情からは笑顔が消えていた。
――自分がやるべきこと。
それが分かっているからこそ覚悟を決めた三人の顔には険しさに満ちていた。




