規格外
魔法使いが常人の一個小隊に匹敵すると言われる所以――。
それはひとえに戦闘能力の多寡だけでなく索敵能力が大きい。
訓練を受けた魔法使いならば相手の気配を感知して居場所を特定するのが索敵における常套手段だったが、世界中の地脈が連なる特殊な土地柄に影響してか――この地においてはありとあらゆる存在の気配が強く魔法使いのやり方がまるで通用しなかった。
そこで活躍したのがネイロの魔法。ネイロが操る風は周囲一帯の地形を把握し、無数にある洞窟の中から“当たり”と思われる場所を正確に探り当てた。
「北、東、西に一カ所ずつ。どこからいく?」
「……北」
「OK。まずは北からね」
「いや待て。三手に別れるってのも手だな」
「ただでさえ少ない戦力を分散させるつもり?」
「俺がダヴィンチなら手っ取り早く一網打尽にできる方法を考える」
「まあ、たしかにあの人相手なら定石でいくのは危ないかもね~」
件の男を中心に話を進める二人の師。ミラにとっては無視されているようで面白くない。
殺戮部隊の序列一位と言えば戦後世代の魔法使いでも知らぬ者はいないぐらいの英雄。誇張としか思えない《伝説》の数々は今や語り草となっていた。
「ダヴィンチさんって実際のところどんな人だったの?」
「一言で言うと人間を辞めた人間だな」
「と、言うと……?」
「奴は正真正銘の天才だった。今年のオリハルコン最優秀者がゴミカスに思えるぐらいすごかった」
「えぇーと……それはつまりボクに喧嘩売ってるってことでいいのかな?」
「まあ落ち着けよ。すぐに人を殴ろうとするのはお前の悪い癖だ。真面目な話、俺を含め歴代どの最優秀者と比べても断トツで優れていた」
「そうなんだ」
「ただ魔法だけがその限りでなくてな。奴は限定魔法を習得に至らなかった」
ミラにとっては意外や意外。一瞬は呆気にとられるほどだった。
魔法使いの資質たる魔力を自在に操れる才能を持ち、さらにその中でもごく一部の者だけにしか習得できないのが《限定魔法》。教養のある魔法使いなら誰もが当たり前のように知ってることだったが、だからこそミラの中で生じた一つの疑問。
「限定魔法が使えないならあまり強くないんじゃないの?」
限定魔法を使える者とそうでない者の力の差。
それはミラ自身、殺戮部隊との戦いの中で散々思い知らされたことだった。
「ところがどっこい。奴は普通じゃないからな」
「それはどうゆう意味?」
「過去にお前が火の精霊と契約して火属性の魔法使いとなったように魔法使いが使える属性魔法は原則として一人一属性までだ。だが奴は違う。ダヴィンチはどうゆうわけか六属性すべてを使える魔法使いだ」
「あり得ない……。そんなことできるわけが……」
「それができるんだよ。なんたって奴は規格外だからな。それだと限定魔法と同じぐらい厄介だろ?」
「それが本当だとしたらね」
にわかに信じがたい。魔法使いの常識ではまず考えられないことだ。
しかしダヴィンチは殺戮部隊の長を務めたほどの人物。
否定したい気持ちは山ほどあったが化物じみた殺戮部隊の面々を実際に見てきた以上、常識なんてものはあってないようなものだというのが今のミラの率直な感想だった。




