戦いの結末
少女まであと数歩。
不意に吐血したベルガは膝から崩れ落ちた。
「なんとか間に合ったみたいね」
「貴様……ウインド・ネイロか……」
「あらあら、今日は昔の知り合いとよく会う厄日ね」
絶妙なタイミングで現れたのはネイロ。
ミラに気を取られていたとはいえベルガは自身でも気付かぬうちに致命の一撃を受けた。
「かつての同胞が何故我らに弓を引く……?」
「同胞……? フッ、くだらない」
「相変わらず癇に障る女だ……」
「奇遇ね。私もあんたみたいな獣臭い男は嫌いだったの」
「先に地獄で待ってるぞ。ウインド・ネイロ……」
最後に捨て台詞を吐いて事切れるベルガ。
ネイロは蚊ほども気に留めず今にも倒れそうなミラのもとへと向かった。
「ネイロさん……」
「よく一人で頑張ったわね」
緊張の糸が切れたように倒れるミラを優しく抱きとめるネイロ。
「ボクのせいでセルヴァスが……」
「あなたは本当によくやったわ」
「ボクのせいなんだ……全部ボクの……」
止め処なく零れる大粒の涙。憑き物が落ちたかのように延々と泣き続ける様は今まで気丈に振る舞った分までまとめて泣いているかのようだった。
「あのね、ミラちゃん。言いにくいんだけど……」
「うぅ……」
「セルヴァスさんまだ生きてるわよ」
「へ……?」
「気配はかなり小さいけど、ほら」
「えっ……」
「経験上こうゆう人はなかなか死なないから安心して」
ミラの中では完全に死人扱いだったが実際は瀕死。それ自体は喜ばしいことだったが、早とちりでどうしようもない痴態をネイロに晒したという事実は手で顔を覆いたくなるぐらい恥ずかしいものだった。
「あの……ネイロさん……」
「ん? なあに?」
「このことはどうか内密に……」
「内密にってなんだよ?」
「うわああああああ!?」
「うっせぇーな。喚くな殺すぞ」
ふらっとその場に現れたのは今の出来事を一番知られたくない人物。
寿命が縮むかと思った。いや縮んだ。
驚きのあまりあたふたするミラの頭の上にそっと手が乗った。
「ちったぁやるじゃねぇーか馬鹿弟子。その感じだと習得したんだろ?」
「……うん」
「その歳で限定魔法を使える奴なんてそうはいないぜ」
「だよね……」
本来ならば手放しで喜ぶべきことなのだろうがミラの心情は複雑だった。
思い返すだけでも胸焼けする濃厚な実戦経験。
今所望する事といえば、ふかふかのベッドにダイブしてそのまま心ゆくまで安眠を貪ることだった。




