プロメテウス
「聞こえる……声が……」
先刻までとは打って変わってミラは落ち着きを取り戻していた。
危機を危機だと認識できない鈍った感覚。
本来ならば死を意識して絶望に打ち震えるところなのだろうが、不思議と今はそういった感情とは無縁の境地にいた。
「あなたは誰なの……?」
ミラをそうさせたのは絶望の淵でようやく聞こえた“声”。
その声の主はたしかに敵の攻撃から自分を守ってくれた。
ミラはそのことに感謝しつつ僅かばかりの畏怖を覚えた。
『……我が名はプロメテウス。火を司る神なり』
最初は幻聴かと思った声も意識することでハッキリと聞き取れるようになった。
――脳内に直接語りかけてきてるのだ。
それはミラが時折体験した魔力の波と関係しており体感的には何度も経験したものだった。
『力の求道者よ。今こそ我と契りを結ぶのだ』
それは初めて魔法を使えるようになった時のことを彷彿とさせる。
ただ当時と違うのは契約者が精霊から神にグレードアップしたということだ。
強者特有の圧倒的な存在感。それは二人の師に勝るとも劣らない。
自らの無力に涙する少女はもはや過去のものとなっていた。
「プロメテウス、ボクに力を貸してほしい」
どのような魔法使いであっても契約できるのは原則一体のみ。
神であるプロメテウスと契約するということは、今まで自分に力を貸し与えてくれた精霊との決別を意味していた。
「……ごめんなさい名も無き精霊さん。あなたのことは一生忘れません」
決して格の高い精霊ではなかったが最初のパートナー。愛着はある。
自分がこれからやろうとしていることはその精霊を見限るに等しい。
そのことに心を痛ませつつも覚悟を決めたミラはカッと目を見開く。
そして、新たな契約の言葉を口にした。




