少女の底力
思わず攻撃を躊躇してしまうほどの不穏――……。
一瞬は呆気にとられたものの不意に手首を掴まれたことでレグナは我に返った。
「なっ……!?」
ミシミシと音を立てて軋む骨。とても女の力とは思えない。
咄嗟に振り払おうとするも洒落にならない馬鹿力。
ミラを屠らんとレグナは慌てて振り上げた右手を振り下ろそうと試みる。
「…………ッ」
自身の限定魔法を発動させるよりも先に宙に浮くレグナの身体。
よもや少女に投げ飛ばされようとは……。
あまりにも想定外すぎる出来事だったが、なんとか空中でバランスを立て直したレグナは着地するなり迷いなく限定魔法を発動させた。
「“散氷乱雨”!」
満身創痍の少女を殺すのに過ぎた魔法などとは言っていられない。
何か取り返しのつかないとんでもない事が起こるのではないかという不安に襲われつつも、レグナはトドメとばかりに右手を振り下ろした。
「これで……」
普通なら間違いなくこれで死ぬ。そう言い切れるだけの猛攻だった。
加減を知らない集中砲火で大量の土煙が周囲を覆ったが、敵を抹殺できたのならばそれでよし。
そうは思いつつもレグナの心に“安心”の二文字はなかった。
「やったのか?」
「おそらく……としか」
レグナは自信をもってベルガの問いに答えることができなかった。
――底知れぬ不安。
それは徐々にだが確実にレグナの心の中で肥大化していった。
「まさか……」
レグナの様子を不審に思ったベルガが土煙の先を睨みつける。
そんな二人の予感に応えるように、土煙の中から人影のシルエットが不気味に浮かび上がった。




