磔の男
「まさか中がこのようになっていたとはな……」
あらゆる不測の事態を想定していたアウロは肩透かしを食らったようにそう呟いた。
「聖堂……」
「君もそう思うかね」
直線二百メートルほどの一本道を歩かされた後に広がる開けた空間。
なぜ城の内部が聖堂のような作りになっているのかは甚だ疑問でしかなかったが、実際にそうなっている以上はその存在を否定できるわけもなし。過去に激しく争ったような痕跡が散見できたが、草が生い茂る今となってはここで何があったのかは知る由がない。
そんな呆気にとられた一行が気付くよりも先に“そいつ”の方が先に気が付いた。
「よお……」
上から見下ろすように聞こえた声。
不意に背筋を撫でられたような悪寒に襲われたミラはその正体を知るべく反射的に視線を上げた。
「なっ……!?」
嫌な予感はしていたが日常とかけ離れた光景にミラは絶句した。
そこにいたのは惨たらしくも壁に磔られた男。
生涯を通じてそう何度もお目に掛かるものではないだろうという確信。いつからその状態となり、それからどのぐらいの月日をその状態で過ごしたのかは定かでなかったが、そうなった時に流したであろう血は黒く変色し壁に凝固していた。
「いい加減降ろしてくれねーか。このままだと空腹でくたばっちまう」
腰まで掛かるボサボサの髪に雑草のように生い茂る髭。着ている服は至る所が無残に破れ原形を留めておらず、一見は浮浪者にしか見えない男は懲りる事無く喋り続けた。
「せめて水。水ぐらいはくれてもいいだろ?」
「あなたは……誰?」
「んん……? なんだお前ら、よく見ると見ない顔だな。新入りか?」
視界を遮る長髪の隙間から興味深そうにミラを見つめる男。
男はようやく一行が“いつもの連中”とは異なることに気が付いた。
「……もしかしてあなたが四条要?」
想像とは大きくかけ離れた男に前にミラは恐る恐る質問する。
「そうだが、それがどうした?」
「どうって……」
「俺を助けにきたのか? それとも殺しにきたのか?」
男の質問に対してミラは少し間を置いてから答える。
「……前者よ」
「ならばすぐにここから降ろしてくれ」
「それならもう少し態度ってものがあるでしょう」
「態度ねえ……。その前に一つ聞きたい」
「なに?」
「あんたって処女……?」