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殺戮部隊と弟子  作者: 水無月14
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聖女の意志

 「“事象の拒絶アンチテーゼ”」

 四条要の限定魔法は無属性。

 六大属性すべての共通点が“事象が生じる”ことならば例外とされる無属性の性質はまったくの真逆と言える“事象の無力化”。

 それは到底魔法使いの常識などで語れるものではなかった。

 「馬鹿な……俺の影が……」

 「冴えない遺言だったな。くたばれ」

 四条要の限定魔法の有効距離は半径約五メートル。普通に会話できるのならば十分に範囲内だ。

 アーネストの失敗は自分の魔法を誇る為だけに無駄口を叩いたしまったこと。

 今までに誰も干渉できなかっただけでそれは決して無敵などではなかった。

 

 「むっ……」

 心臓を貫き一撃の名のもとに葬るつもりだったが直前で逸れた。

 ――否、逸らされた。

 刃物と同等あるいはそれ以上の殺傷力を誇る四条要の手刀が斬り落としたのは右腕。

 アーネストは片腕を捨てることで絶体絶命のピンチを切り抜けた。

 「ぐうう……やってくれたな。この借りは必ず返すぞ!」

 影となり撤退を余儀なくされたアーネスト。

 四条要は周囲の安全を確認してからオルレアのもとへと向かった。

 

 「待ってろ。今すぐ手当てを……」

 「自分の体のことは自分が一番よく分かってます……」

 「オルレア……」

 数多の人を殺めてきたからこそ働く直感。

 オルレアの肩を抱きしめてやることが四条要ができる唯一のことだった。

 「もう戦争は……いやです……」

 「安心しろ。俺の目が黒いうちは必ず阻止してやる」

 「私に……立ち向かう勇気があれば……」

 「お前の所為じゃない。一人で背負いこむ必要はないんだ」

 「聖女としての役目を……逃げ出したばかりに……」

 「そんなものは糞くらえだ! お前が自ら望んだことじゃないだろう!?」

 「あなたは……優しい人です。昔と変わらず……」

 「そんなことねえよ。俺がお前を殺したんだ……」

 オルレアの気配に紛れたアーネストを見落としたのは紛れもない事実。

 物事に“もしも”はないがついつい考えてしまう。


 ――アーネストの存在に気付いていれば……。


 そんな自責の念が四条要の胸を深く抉った。

 「あなたは……ホント……不器用な人……です……ね……」

 「すまん……」

 「私の剣を……」

 最後の力を振り絞ってオルレアは携えていた愛剣を四条要に託した。

 死に瀕しているというのに瞳に宿る希望の灯。

 覚悟を決めた四条要はバトンを受け継ぐようにオルレアの剣を貰い受けた。

 「あなたになら……きっと……」

 安堵の表情を浮かべて幕引きとばかりに閉じられる瞳。

 最後に自分の事などではなく世界を案じてオルレアはその人生に幕を下ろした。


 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」


 オルレアの亡骸を力強く抱きしめて慟哭する四条要。

 長きに渡る戦いの果てに失った悲しみという感情。

 かつて存在した普通の感情が蘇ったことで四条要は大粒の涙を零して泣いた。

 

 『あなたに出会えてよかった……』


 夢か幻か――四条要の耳には確かにそう聞こえた。

 淡い光に包まれて宙に浮くオルレアの身体。

 役目を終えた聖女はそのまま優しい光となって四散した。

 「お前の意志は俺が継ぐ。だから安心して眠れ」

 四条要の瞳に宿る新たな灯火。

 悲しみを乗り越えた男はそのまま前を向き振り返ることなくその場を後にした


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