殺戮部隊の良心
「お前が敵として俺の前に立ちはだかる日が来ようとはな……」
「それは誤解です。カナメさんに話があってきたんです」
「俺に話だと……?」
「この国は長くありません。再び戦乱の世が訪れるでしょう。次こそは私達の手でこの世界を真の平和に導きましょう」
「本気でそんなことを言ってるのか……?」
「もちろんです。どうしてそんな顔をするんです?」
「お前があまりにも馬鹿げたことを言うからに決まってるだろう」
「……お願いです。私と一緒に来てください。でないとあなたを倒すしか道がありません」
「まあ大方そんなとこだと思ったよ。わざと気配を垂れ流し俺をおびき寄せたわけか」
殺戮部隊の中でもオルレアとその教育係だった四条要は特に仲が良かった。
四条要にとってオルレアは妹分でありオルレアにとって四条要は良き兄貴分。
血の繋がりこそないものの兄妹同然だったがゆえにその心はお互いよく理解していた。
「……なんでもお見通しなんですね」
「お前は悪魔に魅入られた殺戮部隊の良心だ。それは未来永劫変わらないものだと思っている」
「私は……」
「分かってるさ。分かってるからそれ以上は何も言うな」
幸せだった頃のすべてを失ったオルレアにとって殺戮部隊はこの世に残された唯一の居場所。
たとえそれが悪に堕ちたとしても否定できるわけがなかった。
居場所を失った者にしか分からない居場所を失うという恐怖。
いかに最強の魔法使いといえども人である限りその呪縛には抗えなかった。
「ごめんなさい。私には止めることができませんでした……」
「あとは俺に任せておけばいい。お前の居場所は俺が必ず用意してやる」
「カナメさん……」
「だからお前はもう奴等とは縁を切れ。いいな?」
「……はい」
憑き物が落ちたオルレアの眩い笑顔。それは四条要にとって報酬以上の価値があった。
だからこそなんとしても殺戮部隊の暴走を阻止しなければならない。
オルレアの笑顔が悲しみに支配されるなんてことがあってはならない。
久々に心に熱いものを滾らせた四条要の決意はなによりも固かった。
「“あの人”は《神殺しの地》にいます。そこで世界を――……」
自分が知る限りのすべてを伝えようとするオルレア。
直後にオルレアは目を見開くと言い掛けた言葉を引っ込めた。
「かはっ……」
言葉に変わり口から溢れた鮮血。
歪な形状の黒剣がオルレアの心臓を貫いていた。
「嘘……だろ……」
夢と現実の狭間で酔ったように揺れる視界。肌は熱気を帯びて粟立ち心臓は今まで感じたことがないぐらい勢いよく脈打ち始め――四条要の頭の中は真っ白な世界に包まれた。
「ごめん……なさい……」
消え入るような声で儚くも崩れ落ちるオルレア。
吸い寄せられるようにオルレアのもとに駆け寄る四条要だったが、不意に地面から感じた言い知れぬ違和感がその足を止めた。
数々の修羅場を潜ってきたからこそ働く勘。それが敵の正体を看破するに至った。




