強者との駆け引き
二人の師ほどではないにしろ眼前の敵は強い。まともに戦えば勝ち目は薄いだろう。
素直に相手の実力を認めたミラだったがここで退くという選択肢はなかった。
「それでも倒す。こんなところで苦戦してる暇はないんだ!」
「ククク、力の差を測れんとは青いな。ここで死ぬがいい」
「魔法使いの戦いに絶対はない!」
地面を蹴ったミラは小細工なしに真正面から敵に突っ込む。
刺客はミラよりも上手。当然ながらミラの狙いには気付いていた。
――近接戦。
火属性魔法はその性質上距離が近いほど爆発的な威力を発揮する。
しかしそれは近付く際のリスク高さに比例していた。
「“水砕槍”!」
ミラを迎撃すべく刺客が繰り出したのは無数の水槍。
矢のように放たれた水槍は壁に綺麗な風穴を開けるほどの破壊力を有していたが、ミラは怯むことなくそれらすべてを紙一重で躱すと一気に相手の懐に躍り出た。
「なんと!」
命を一切惜しまない機敏な動きに刺客は狼狽した。
侮っていたとはいえ殺すつもりの攻撃だった。
にもかかわらず小娘の大胆不敵なその動き。
思わぬ驚きこそあったものの刺客とってそれはまだ想定の範囲内だった。
「“水壁宝珠”!」
瞬く間に結晶化した水球がミラと刺客の間を隔てる一枚の大きな水盾と化す。
先刻とは違って全身全霊による完全防御。
小娘が攻撃すれば自爆。何もしなければ盾の形状を変化させて一気に畳掛ける。
具体的な勝利のビジョンを垣間見たことで刺客は我慢できずにほくそ笑んだ。




