時空牢
「デタラメだわ……なにもかも……」
この世の摂理を覆す異質な光景。非常識という言葉で締め括るのにも限度がある。
常識的に考えれば地面は足元、空は頭上に広がるものだったが、この世界においてそういった常識などというものはまったくと言っていいぐらい通用しなかった。
――なぜ無数の大地が自分たちの頭上を浮遊しているのか。
――なぜ自分達が浮いた大地の上にいるのか。
――なぜ見た事も無い植物や文明の跡地がそこだけくり抜かれたように点在するのか。
存在そのものが“謎”に包まれたこの世界においてミラの頭は今にもパンク寸前だった。
「よくもまあ……こんなものを隠しておいたものだな」
「フン! 公表などできるわけがなかろう」
常識では語り得ぬ未知の世界。学長が隠すのも無理からぬことだ。
もしもこんなものが明るみになれば自分達の世界を脅かす脅威でしかない。
アウロにとってこの世界はそう思えるほどに測り知れない危険な代物だった。
体感的には一時間ほど歩いた頃だろうか。
最初は何かの間違いのように思えたが、それは確かに“そこ”にあった。
「あれは……まさか城とでもいうのか?」
城というにはあまりにも特異すぎる外観。少なくても定石からは逸脱していた。
簡素にして攻撃的であるにもかかわらず外壁や堀といった必要不可欠な防衛物を一切もたないその作りは非物理的な力による防衛が図られていたことを暗に意味していた。
「学長、あれが次空牢か? 四条要はあの中にいるのか?」
「…………」
「その沈黙は肯定ととらせてもらうぞ」
アウロの言葉に異論などあろうはずがない。ミラは黙ってアウロの後に続いた。
それから二十分ほど歩いたことでようやくたどり着いた城の入り口。アウロは指示を出すべく振り返った。
「得体の知れない城だ。罠の可能性も充分考えられる。ドレイクとメイはここで待機」
「ハッ!」
「一時間経っても我々が出てこないならば緊急事態だ。対処は分かるな?」
「速やかにこの場を離脱。国王に報告した上で捜索隊を組織します」
「それでいい。ここは任せたぞ」
「御意にッ!」
団長であるアウロの警護に抜擢された聖騎士も残すところあと一人となった。
ミラはそのことに一抹の不安を覚えたが、アウロの判断が間違っているとは思わない。
なぜなら聖騎士団と言えば国軍の中でもエリート中のエリートだ。
実力に関して言えばミラよりも遥か格上。その中でも個人で絶対的な強さを求められる団長のアウロは別格と言っていいだろう。それ程の者が近くにいて不安を抱くこと自体が失礼だとミラは思ったが、それでも言い知れぬ不安を拭い去るには至らなかった。