本来の姿
「ふーん、意外ね……」
四条要が風呂に入ってから二時間ほど――。
浮浪者にしか見えなかった男の本来の姿を目の当たりにしたミラは思わずそう漏らした。
「もの珍しそうに人のことジロジロ見てんじゃねーよ」
「いや、だって……」
髪や髭が雑草のように生い茂っていた時とはだいぶ印象が異なる。
それはさながら若い狼を彷彿とさせる精悍な顔立ち。
侍女たちが騒ぐのも無理はないと思えるほどに四条要は雄々しい“雄”の存在感を放っていた。
「なんだよ。俺の顔に何かついてるのか?」
「別に……」
「それとも俺がイケメン過ぎて見惚れたとか?」
「馬鹿じゃないの。そんなわけないじゃない」
「ははは、これだから生娘はからかい甲斐がある」
そう言ってミラの頭をポンポンと叩く四条要。
「やめてよ!」
ミラは四条要の手を払いのけて不快感を露わにする。
大人に憧れる年頃のミラにとって子供扱いされることは屈辱以外の何者でもなかった。
「私も生娘なんだけどなぁ~」
不意に四条要の耳元で甘く囁く声。
「ネイロか……ビビらせるなよ……」
「私も生娘なんだけどなぁ~」
「おう、そうか……」
「ちょっと対応が全然違うじゃない! 私にもポンポンしてよ!」
四条要の胸座を掴むネイロは頬を脹らませ大層ご立腹な様子。
そんなネイロに冷ややかな視線を送る四条要は面倒臭そうに言った。
「相変わらず鬱陶しいやつだな……」
「いいから早く」
「やだよ。お前髪濡れてるし。てか、お前も風呂入ってたのかよ……」
「カナメ君と混浴しようと思ったけどダメだって。とりあえず髪を乾かせばいいのね」
ネイロがパチンと指を弾くと部屋中に吹き荒れる暴風。
室内にあるありとあらゆるものが吹き飛ばされ床に散乱した。
「お前な……」
「ほら、乾いた。ついでにあなたの髪もね」
得意げにウインクする元凶。
周囲はそんなネイロを白い眼差しで凝視する。
「ずいぶんと部屋を荒らしてくれましたが、これは誰が片付けるんですかね?」
「あっ、いけない。それは考えてなかった」
「次からは外でやってくださいね……」
「ごめんなさいね。えぇーと……クオバディスさん?」
「セルヴァスです!」
「あはは……」
執事に怒られてバツが悪そうに笑う元凶。
そこには世界最高賞金首ウインド・ネイロの姿はなかった。




