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殺戮部隊と弟子  作者: 水無月14
33/82

革命派

 ――大戦の影響で地底に沈下した廃墟群。

 人目を忍ぶように集まった怪しげな者達は太陽の光が一切届かない深淵ともいえる暗闇の中で互いを監視するように様子を窺っていた。微かに目視できるのは人型のシルエットだけだったが誰がどこにいるかは気配で掴んでおり長々と続く重苦しい空気の中で誰かが口火を切るのを静かに待っていた。

 「すでに知ってる者もいると思うが、時空牢が襲撃された」

 「襲撃……? 誰にだ?」

 「聖騎士団だ」

 「学長と同胞は何をやっていた?」

 「どちらも死んだよ。いや、殺されたと言った方が正しいか」

 「フン、聖騎士団ごときに遅れをとるとは殺戮部隊の面汚しだな」

 「……学長はともかく同胞は別の者の手に掛かったと見ている」

 「それはどうゆうことだ?」

 「時空牢には学長と聖騎士の遺体があったが、同胞三人の遺体は西のアジト付近で見つかった」

 「で、そっちは誰にやられた?」

 「不明だ。ただいずれも鋭利な刃物のようなもので全身を切断されていた」

 「つまり三人の殺戮部隊を同時に相手できるほどの手練れというわけか」

 「ああ、それも無傷でな」

 上位の序列持ちと比べて戦闘力で劣るとはいえターニャ達は決して弱くはない。

 そんな三人を無傷で屠れるほどの術者。

 事実上そんなことができる者など限られていた。

 「それってすでに答えでてないッスか? 俺の気のせいッスかね~?」

 「ウインド・ネイロ」

 「ちぇ……俺が今言おうと思ってたのに……」

 「いやはや序列六位ですか。ずいぶんと厄介な人がこのタイミングで出てきましたね」

 「さては聖騎士団と手を組んだか?」

 「おそらくそれはないだろう。仮に序列六位が時空牢にいたとすれば同胞三人はそこで殺されてないと不自然だ」

 「すると聖騎士団の件とネイロの件は別件と考えるのが妥当か」

 「いずれにしても序列六位が嗅ぎ回ってるのは少々厄介だな」

 「やはり序列四位への恋慕を利用したのは悪手だったようだな。我ら《革命派》に対する憎悪の念が未だに消えていないと見える。序列三位が独断でやらかした事とはいえ奴を殺した程度では到底納得はしていないとみえる」

 「大事な時期だというのになんてことだ。ウインド・ネイロを始末するとなるとこちらも只ではすまんぞ」

 「……大損害は免れない」

 「いっそのことネイロを無視したらどうだ? 必ずしも我らの邪魔になるとは限らない」

 「すでに三人の同胞が犠牲になっているのにまだそんな悠長なことが言えるのか」

 「なんだと貴様、表に出ろ」

 「よせ。こうゆう時だからこそ序列四十三位にその判断を委ねるべきだ」

 四十四名の序列持ちの中でも最下位の次に位置する序列者。

 それは個人の“戦果”と“戦闘力”を数値化した合計が殺戮部隊の中でも最も低いレベルであることを意味していたが、大事な決断を敢えてその者に委ねるということに対して異議を申し立てる者は一人としていなかった。

 

 「……今はまだ何も視えませんが、今動くのは不吉を感じます」

 「わかった。では延期しよう」

 「マジかよ!? このタイミングで延期とか冗談キツいぜ!」

 「序列四十三位の“予知”になにか異論でも?」

 「いやいや、滅相もない」

 「お言葉ですがボス。私の未来予知は絶対的なものではありません」

 「小さな不確定要素の介入で未来など簡単に変わる……か」

 「はい。盲信は危険です。あくまで一つの参考意見として聞いてください」

 「フッ……そうさせてもらおう」

 ボスと呼ばれた男は序列四十三位の忠言を受けて口元を緩めた。

 水面下で整いつつあった計画の妨げとなりえる四条要とウインド・ネイロという二つの不確定要素。世界を揺るがすであろう《計画》を前にしてそれを捨て置くというのはあまりにも危険。

 それが四条要やネイロにとっては敵である革命派の全体の共通認識だった。

 「まずは四条要とウインド・ネイロ、及びその関係者を消す」

 「して誰が動く。奴らは並の使い手なんかじゃないぞ」

 「俺が出よう」

 「おいおい、ボスであるあんたが真っ先に動いてどうする?」

 「殺戮部隊の中でもやつらの強さは“異質”だった」

 「異質には異質をってか? ちったぁ自分の立場ってもんを考えろよ」

 「そうは言っても――……」

 「ならば私が参りましょう」

 二人の男の会話に割って入る女の声。それは意外な人物の発言だった。

 「序列五位か……」

 「はい。私に一任していただきたく存じます」

 「ふむ、お前ならあるいは……」

 単に実力だけでいえば殺戮部隊の中でもトップクラス。

 控え目で戦果を他人に譲りたがる性格でなければ、その序列は限りなく一位に近かったであろうと目される人物の進言に自然と周囲の目が集まる。

 

 「……ダメだな」


 そんな中で今まで沈黙を貫いていた人物が口を開いた。

 「なぜです?」

 「貴様は甘すぎる。可能であれば二人を説得して仲間に加えたい。……違うか?」

 「…………」

 「俺はその甘さが計画に悪影響を与える気がしてならない。だから俺も同行させてもらう。それと序列八位と十二位もだ」

 「殺戮部隊を四人も投入するなんて無茶です」

 「それはボスである序列一位が決めることだ」

 「それはそうですが……」

 性格的な問題から序列五位は殺戮部隊で最も懐疑的なこの男を苦手としていた。

 今までは可能な限り関わらないようにしてきたがまさかこうなるとは……。

 気持ちの上では申し出を拒否したかったが、現状その判断はボスに委ねる他なかった。


 「あの二人を倒するには万全を期す必要がある。四人でいって確実に仕留めろ」


 「……御意に」

 「計画の方は半年ほど見送る。以上で何か異議はあるか?」

 「…………」

 「今後の詳細は追って連絡する。各自、来たるべき時に備えろ。解散」

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