ミラの目的
「気のせいかずいぶんと若いわね。もしかしてカナメ君の……」
「勘違いするな。いろいろあって俺はこいつに助けられたんだ」
「いろいろって?」
「答える義理はない。それはそうと俺を助けたのには何かワケがあるとか言ってたな。悪いがヤボ用ができたから聞きたいことがあるならさっさと聞いてくれ。分かる範囲で答えてやる」
四条要のストレート過ぎる言葉。プライベートな事柄ゆえにできれば一対一の場面で聞き出したいと思っていたがようやく訪れた機会の場。これを逃せば次は何時になるのか分からない。
そう思ったからこそミラは気が乗らずとも今この場で聞くしかなかった。
「……かつてアルザット地方の山奥にあるロンバックという村が殺戮部隊に襲われた」
「つまるところ復讐か。まあそんなとこだろうとは思ってたが」
「復讐とかじゃなくて真相を知りたいの。どうしてボクの本当の両親が死ななければならなかったのかその理由をたしかめたい」
「知ってどうする。お前が納得する答えがあるとは限らんぞ」
「だとしても真実が知りたいという気持ちに嘘はない」
「……知れば相手を殺したくなるとしてもか?」
「もしも生きてるのならば捕まえてちゃんと罪を償ってもらう」
「悪いことは言わん、やめておけ。お前程度の実力じゃ返り討ちに遭うのが関の山だ」
「それでも両親を殺した相手ぐらいは知っておきたい。いざって時は見捨ててもらってかまわないからボクも同行させてほしい」
「そうゆうのはお断りだ。こちとらピクニックに行くわけじゃないんでな」
「どうして……? 足手まといにはならないって言ってるんだからいいでしょ?」
「どうしてもこうしてもねえ。ダメなものはダメだ」
「理由になってない」
不満に満ちた表情を浮かべて食い下がるミラ。自分がお荷物になることは百も承知だが、だからといって危険が迫れば守ってもらおうだとか虫のいい事を言うつもりはない。あくまで自己責任の上で同行を申し出たにもかかわらず、一方的かつ即答で拒否されるというのはミラにとって到底納得ができるものではなかった。
「カナメ君、この子どうする? 邪魔になりそうなら今のうちに殺しとこうか?」
「よせ、そいつはアースガルドの御令嬢だ」
「だから何? 私達の邪魔をするなら関係ない」
淑女然とした雰囲気が消え失せ――殺人鬼特有の冷淡な表情。
――今までに一体どれほどの修羅場を潜ってきたのか?
本能的に“死”を意識させられたミラは顔を青白くして震え上がった。
「お嬢様ッ!」
そんなミラを守る為に割って入るセルヴァス。
ネイロが手で払う動作をするとその体は勢いよく吹っ飛び、遠く離れた壁に叩きつけられた。
「セルヴァス!」
「よそ見してる暇なんてあるの? 次はあなたの番よ」
「詠唱なしでこの威力……本当にこれが人間なの……?」
並の魔法使いでは到底辿り着けないであろう境地。
心のどこかで殺戮部隊を知ったつもりになっていたミラは自らの認識の甘さを痛感した。
「これが殺戮部隊……」
かつて戦場で死を振りまいた伝説の部隊の生き残り。
本当にこれが人であっていいのか?
ミラの目から見て、ネイロはさながら“死神”か“悪魔”の化身と見紛うほどに強大で邪悪な存在だった。




