記録に残らない戦い
「ねえ、どうゆうことなの?」
「お前には関係のない話だ。今聞いたことはすべて忘れろ」
「関係ないなら教えてくれてもいいじゃない」
「チッ……めんどくせえ小娘だな」
「小娘じゃない。私の名前はミラ・アースガルド! で、どうゆうことなの?」
並々ならぬ興味を示して説明を求めるミラ。
本来ならば答える義理はなかったが四条要にとってミラは無視できない存在。
保険的な意味合いでも釘を刺す必要性を感じた四条要は僅かな沈黙の後に不本意ながらミラの質問に答えてやることにした。
「……大戦末期、殺戮部隊が反乱を起こしたことは知っているか?」
「知らない者はいないぐらい有名な話よ」
「だったら殺戮部隊同士で殺し合いがあったことは知ってるか?」
その事実を知るのは当事者と一部の関係者のみ。
当然ながら部外者であるミラが知る由もなかった。
「殺し合い……? でもなんで?」
「簡単に言えば反乱を支持する派が反乱を支持しない派を粛清しようとしたんだ」
「へえ……」
「俺を含め反乱を支持しない者は奇襲を受けた。おそらくはその時に大勢の仲間が死んだはずだ。俺も刺客として送りこまれたネイロと戦って命からがら逃げ延びたところを別の殺戮部隊に封印されたわけだしな」
それから約十年。ミラと出会うまで封印されて過ごした。
四条要の口から語られたことから事の顛末を理解したミラだったが、どうにも腑に落ちないことが一つだけあった。
「どうして封印されたの? 話を聞く限り他は殺されたというのに」
「ん? ああ……そりゃ俺が《不死者》だからだよ」
「あり得ない。嘘つくならもう少しマシな嘘ついたら?」
「嘘じゃねえよ。俺は昔、人魚の生き血を啜ったんだ」
「そんなお伽噺を信じろというの。学生だからって馬鹿にしないで!」
そういった伝説や伝承を探せばいくらでもあるだろうが、それはあくまで架空の話。
たとえ魔法を極めし“限定魔法使い”であってもそんな都合の良い“限定魔法”の発現など現実的に考えてあり得ない。
魔法に絶対はないとはいう原則はあってもミラにとってそれは嘘としか思えなかった。




