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殺戮部隊と弟子  作者: 水無月14
23/82

ウインド・ネイロ

 「あらあら、もう気付かれちゃった。ウフフフフ」

 肩までかかる横髪をいじりながら不敵な笑みを浮かべてミラ達一行を見下ろす女はパーティ会場から抜け出してきたかのような紺色のドレスに身を包み、貴婦人と名乗ってもなんら違和感を感じさせない妖艶さを纏っていた。

 「……何者ですか?」

 「レディーに名を聞くのならまずはご自身から名乗られてはいかが?」

 「なるほど。貴女相手なら外敵排除担当としての役割が果たせそうですね」

 「やめておけ」

 「なぜ止めるのです。邪魔立てするなら容赦はしませんよ?」

 「ウフフフ」

 四条要と張り合えるほどの手練れを相手に透けて見える余裕。

 ――底なしの馬鹿なのかあるいは本物なのか。

 セルヴァスは女の様子から尋常ならぬ何かを感じ取って足を止めた。

 「あの女の正体を知らんみたいだから教えといてやろう。“ロンヴァルディアの悪夢”ことウインド・ネイロといえば奴のことだ」

 「なっ……!?」

 「ウインド・ネイロと言えば史上最高の賞金首……」

 殺戮部隊の中でも一、二を争う有名人の名を聞いて狼狽えるミラとセルヴァス。

 女が只者でないことはわかっていたが、四条要が口にしたその名は二人の想像を超える大物だった。


「やり合うなら止めはしないが強いぞ。……たぶん俺よりな」


 殺戮部隊に属している者の中でも存在そのものが疑問視されたほどの人物。

 ネイロが大戦中に活動した期間は僅か半年ほどとされているが、その半年の間に落とした国の数は少なく見積もっても六つを数え、殺戮部隊の中でもその圧倒的な戦果は当時から疑惑の声が上がるほどに際立っていた。

 故に殺戮部隊討伐の際は国家予算に相当する賞金を懸けられたものの誰もが謎多き女の行方を掴むことができず。戦後の混乱も手伝って大戦中の戦意高揚を目的とした架空の人物(プロパガンダ)という見方で現在は落ち着いており誰しもがその認識に疑問の余地を挟もうとはしなかった。

 今や一部では伝説とまでいわれる人物との邂逅。

 それはミラにとって未知との遭遇でもあった。


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