一触即発
「やはり誤魔化すことはできませんか……」
「人畜無害そうな見た目を装ったところで人殺しの臭いはそう簡単には落ちやしねーよ」
「十年も幽閉されていれば少しは勘も鈍るものと思ってましたが、やれやれ……どうやらそうでもなさそうですねえ」
「察するに俺の事を小娘に教えたのはお前か。よくもまあ面倒に巻き込んでくれたものだ」
場所などおかまいなしに敵意を剥き出す四条要とセルヴァス。
もしも二人が激突すれば周囲一帯が消し飛んでもおかしくないと思えるほどの気迫に圧倒されつつもミラは捻じ込むように口を挟んだ。
「二人ともやめて!」
「どけ。小娘は引っ込んでろ」
「小娘じゃない。私にはミラ・アースガルドという名前がある」
「お嬢様、この男は私が制しますのでそこをおどき下さい」
「セルヴァス。いくらあなたでも勝手は許さない」
毅然とした態度で四条要とセルヴァスの間に割って入り争いを止めようと試みるミラ。
しかしその心は虚勢で満ちており――二人の猛者が放つ敵意あてられたミラは今にも泣きだしそうになったが、それでも断固として退こうとしなかった。
「弱えくせにしゃしゃり出てきやがって……殺されてえか?」
「死ぬ気はないし、あなた達二人を戦わせる気もない」
「お前には助けてもらった借りがあるが命令される謂われはない」
小娘が危険を冒してまで自分に会いに来た理由――。
異世界から現世に帰還した時点で約束を反故にして逃げるぐらい造作もなかったが、それを良しとしなかったのは借りを作ったままの状態で終わるということを嫌う四条要の信条によるところが大きい。
「――――――――ッ!?」
そんな中で解放された窓から入ってきた突風。
それは違和感というにはあまりにも小さなものだった。
しかし気付かなければ死ぬ。そう直感したのはほぼ同時。
四条要とセルヴァスは二階にある窓の一つに目を移した。




