十年という歳月
「私が聞きたいのは十年前の戦争のことよ」
四条要にとっては耳を疑いたくなる言葉。
なにかの聞き間違いだと思いつつ聞き返す。
「ちょっと待て。十年前だと……?」
「そっ、今から十年前の世界大戦の頃の話」
「んな馬鹿な……」
長い年月ここで張り付けられていたという自覚はある。
だが十年なんて悪い冗談だ。
四条要は混乱のあまりミラの首を締め上げた。
「く、苦しい……」
「本当のことを言え。十年で間違いないのか?」
「そうよ。わかったら早く離しなさいよ! この馬鹿力!」
「マジかよ……ぐっ!?」
再び四条要の胸に走ったのは身体の内側から針で刺されるような痛み。
それは先程感じたものと同様のものだった。
――ゆえに四条要は確信した。
なんらかの偶発魔術が発動し、自分はその影響を受けているのだと……。
「いろいろ最悪だな。くそっ」
「くそはアンタよ。さっさと手を……」
「ああ、すまん。いきなり掴み掛かって悪かったな」
ミラを解放した四条要は険しい顔をしてクシャクシャと髪を掻き乱す。
体感的には数カ月ぐらいの話だと思っていた。
小娘の言ってる事が正しいとするならばこの地に十年も縛り付けられていたことになる。
それは俄かに信じ難いことだったが、まずは外に出ることが先決。
新手の敵が現れないとも言い切れない状況での長話は危険を伴うものだった。
「とにかくここから出るぞ」
「だいぶ混乱してるみたいだから今はいいけど私の質問はあとで必ず答えてよ」
「ああ……」
帰路は長く険しいものだったが出口が逃げるわけではない。
ミラに従って歩くことしばらく。
四条要は十年ぶりに現世の空気を口にした。




