偶発魔法
「私は何をすればいいの……?」
「封印術式に別の術式を上書きしてくれればいい」
「術式の上書きなんてしたことないわよ。てか、まずそれ犯罪だし!」
「アホか貴様は! こんな状況で犯罪もクソもあるかよ!」
魔法術式の上書きそのものはそう難しいことではないので今のミラでも十分に可能。
ほとんどの場合は打ち消す形で術式はその効力を失うが、ごく稀に“例外”というものが存在し、法律をもって禁止としたのはその例外を危険視したからに他ならない。
その通称を《偶発魔法》。
術式を上書きした際に打ち消されることなく奇蹟的に新たな魔法を創出すること。
そのうちのいくつかは現代魔法理論の礎になったと言われているが、最悪のケースにおいては一夜にして一国が跡形もなく消し飛んだというとんでもない記録が残されている。
だからこそミラは戸惑った。万に一つの確率で自分がそれに該当してしまうかもしれない。
加えて若さゆえの臨機応変さに欠ける遵法精神も手伝ってミラは躊躇してしまった。
「聖騎士のじじいが食い止めしている間に早くしろ!」
「くっ……」
「死にたいのか死にたくねぇーのかどっちなんだテメェーは!?」
この女は二度殺す。四条要の苛立ちはピークを迎えていた。
一刻を争う事態だというのに何を悠長なことをしているのか。
聖騎士団に入団したばかりの新米だとしてもお粗末過ぎる状況判断能力。
そんな奴に頼らないといけない現状が歯痒い事この上なかった。
「わかったわよッ! やればいいんでしょ!? やればッ!」
ヒステリックに喚いたミラは半泣きになりながら四条要を睨みつける。
「……全部アンタの所為だからね!」
頭の中がパンク寸前となりながらもミラは半ば捨て鉢同然にその覚悟を決めた。




