団長の実力
蚊柱のように蠢く黒い霧。ターニャを中心にしてその周囲を漂うのは夥しい量の砂鉄。
少量でも銃弾に匹敵する威力。
もしもそのすべてを身体で受けることになればまず原形を留めて死ぬことは叶わないだろう。
目前に迫った“死”を意識したミラは身体を小刻みに震わせ顔を強張らせる。
「やれば……できる……じゃない……。もっと……私を……感じ……させて……」
――殺そうと思えばいつでも殺せる。
恐怖で震えるミラを見るなり詠唱を止めたターニャは不気味にほくそ笑んだ。
「闇の従者よ! 我が命に従いその大いなる力を解放するがいい!」
そんな中で横槍とばかりに聞こえてきた詠唱。
直後に黒い波動がターニャに襲い掛かるも、周囲を浮遊する砂鉄が瞬時に反応してそれを打ち消す。
「フン、かかりおったな。くらえ! “闇帝演舞”!」
二段構えとばかりに発動された限定魔法。
アウロの足元にブラックホールのような異次元が発生すると蜘蛛のように無数の手を生やした巨大な鎧武者が召喚され間髪入れずに手にする巨大な黒剣を敵目掛け振り下ろした。
「――――ッ!?」
並の術者なら訳もわからぬうちに粉砕されているであろう強力な一撃。
普通ならばそれで勝敗が決していたが、殺戮部隊の名は伊達ではない。
「……“砂鉄重障壁”」
咄嗟の判断で巨大な盾を作り上げたターニャはアウロの攻撃を防いで見せた。
まさに間一髪。コンマ数秒反応が遅れていれば即死コースだっただろう。
結果としてアウロを警戒していた事が功を奏した。
そんなターニャが抱いた当然の疑問。
――アウロと対峙した仲間は何をやっていたのか。
それは数秒にも満たない疑問だったが、ターニャはすぐにその答えに辿り着いた。
「ミラ! いけるなッ!」
「はい!」
息の合ったコンビネーション。迂闊だった。
ミラの動きを阻止しようにも今はアウロの攻撃を防ぐことで手一杯。
とてもじゃないがミラを攻撃する余裕などなかった。
「他の……二人は……?」
「どうやら全員が同じ手に引っ掛かったわけだ」
殺戮部隊の三人ともが手段は違えどアウロの攻撃を防ぐ形で牽制されていた。
そんなアウロを肩に乗せて従うのは“魔王”の二つ名で知られる鎧巨人。
聖騎士団最強と名高い術者の限定魔術は三人の殺戮部隊をして厄介と思わせる代物だった。
「うおおおおおおおッ! させるかあああああああ!」
最初にアウロの攻撃を力任せに弾いたのはカーチェス。
本来なら蚊ほどの存在でしかない小娘だが今は違う。
厄介事を招く前に始末する必要性を経験から感じ取っていた。
「なかなかやる。しかしそう簡単にぬけられると思うなよ」
巨人の肩から飛び降りてカーチェスの前に立ちはだかるアウロ。
「くっ……」
――相手にとって不足はない。
カーチェスは惜しみなく自身の限定魔法を発動させた。




