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男の過去
かつて偉大な哲学者は万物あらゆる物事において永遠は存在しないと言った。
生があれば死があり、繁栄があれば衰退がある。
歴史とは謂わばそういったものの連鎖なのだ……と。
それは男が手に取った哲学書の中でも特に印象深く残る真理だった。
少年心に宇宙の始まりと終わりを垣間見た感動すら覚えたものだが、今やそれは男にとって遠い昔話。男はいつしか大人の仲間入りを果たしていた。
――そして気付いたのだ。
それは至極当たり前のことで別段驚くべきことではない……と。
ただ哲学者が偉大なところはそれを的確な言葉として後世に残したことだ。
男にとってそれは哲学の道を志す理由となり得たが、時代がそれを許さなかった。