エピローグ
店の前庭で、シュウが薔薇の手入れをしていると、冬里がやって来る。
冬里は、時たま庭にいるシュウとたわいもない話をする事があるので、彼は特に気にせずに手入れを続ける。
「僕さ、そろそろここを出て行こうかと思うんだけど」
「え?」
「シギから手紙をもらったんだよね」
「ああ、だからあのとき、少しぼおっとしていたんだね」
「そ」
「冬里らしくなく」
「なにそれ」
フフ、とお互いに笑いあって、しばらくお互いに黙ったまま。
シュウは特に問い詰めるでもなく、冬里が話し始めるのを待つ。
「サグラダファミリア」
「?」
「シギってさ、着工したときスペインにいたんだって」
「ああ、そうなんだ」
「で、えーと、2026年に完成予定だから、一緒に完成を祝わないかって」
そこまで話すと、シュウは可笑しそうに静かに笑い出す。
「なに?」
「いや、なぜ冬里なのかな、と思って」
「うーん、なんでかな。シギは僕とシギが似てるって言うんだけど」
「それは、言えるかも」
「ええー、そうかなあ」
冬里はまるで人ごとのように言うと、また庭をそぞろ歩きはじめる。
ちょうど「レティヴィアン」の前まで来ると、立ち止まって彼女に顔を近づける。
「ま、僕も今すぐって訳じゃないけどね」
冬里は、みずみずしい香りを胸に吸い込みながら、「うーん、相変わらずいい香り」と、満足したように顔を上げた。
「じゃ、そういうことだから。あ、このこと、まだ夏樹には話さないでね」
シュウは、これにも問いかけをすることなく、ただ黙って微笑んでいた。
その頃、仲間はずれにされているとはつゆ知らずの夏樹は、新たなレシピに挑んでいる最中だった。
変わりゆくことは多々ありますが、『はるぶすと』は本日も通常通り営業しております。
了
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。
『はるぶすと』シリーズです。
由利香さんがイギリスに行っちゃう?
冬里もスペインに行っちゃうー?
この世に変わらないものはないとは言え、また新たな展開ですね。今後ものんびりとお話し続いていきそうですので、また遊びにいらして下さい。それでは。