帰省
いつもその大きな大きな背中を眺めていた。
いつかはきっと萎んでしまう、その背中を。
ただただ羨望の眼差しで。
玄関の勢いよく開け、召喚していた体長6~7メートルの小柄な翼龍の背中に乗り、アルルへ手を差し伸べる。
主人たるものこのくらいせねばな。
日傘やサングラス等で日光対策も完璧、だが肌の露出が激しい黒いメイド服を着たアルルを乗せ魔王城へと飛び立つ。
魔王城上空へと差し掛かる頃、ふとした異変に気づいた。
以前は無かった煙突がいくつもそびえ立ち、銀色のドーム状の建物が三つほど魔王城に隣接するように建てられている。
「……なんだありゃ、趣味悪いな」
訝しげに呟きつつも魔王城内の庭へ龍を着陸させようとするが―
庭を取り囲む城壁より銃声が鳴り響く。
「なんだ!?」
突然の衝撃に受け身すらとれず、翼龍ごと墜落してしまう。
投げ出されずには済んだものの、受けたダメージは大きく、アルルに至っては日光のダメージも受け、腕を火傷してしまっていた。
空を壁を一瞥し、撃たれた原因を探るも魔銃のようなものがいくつか設置されてるだけで兵の姿は見当たらない。
「妙だな……翼龍を撃ち落とせる程の魔弾ならば、何十もの兵が必要なはず……。
魔力を込める兵士すらいないとは……」
念のため持ってきておいた魔銃に魔力を込める。これが魔界での本来の使い方だ。
魔物の生命力たる魔力を込め、高濃度の魔力の塊にする。
それなのに、先程の魔銃の場所には誰も居ず、たま探知をしても魔物の気配は感じられない。
「シャウラ様、こちらへ」
傷の治癒を負えたのか、翼龍の様子を見ていたアルルが僕に手招きする。
そちらへ向かうと翼龍の傷痕を右手で指差した後、左手に持っている何かを側に寄せた。
「翼龍の銃痕から取れたものです、銀色の円筒……いや円形でしょうか、とにかくこれがなにかはわかりかねますが、少なくとも魔力で撃ち抜かれたわけではないことは確かです。」
「魔力による攻撃ではない……?はー、面倒なことになったなあ」
大きく溜め息をつき、様子見がてら魔王城にきたことを後悔する。
「にしてもそりゃなんだ?球体のようだが、軽いし、こんなんが翼龍の鱗を貫いたってんのか?冗談じゃねえ」
翼龍の鱗は魔界一とはいわないが、ある程度の硬さを誇る。それを貫き、落とすまでに至ったということは余程の力なんだろう。
見たこともない兵器に対して面倒、程度の感情しか湧かないのは翼龍よりも硬い皮膚を持っているわけでもなく、ただただ純粋に高純度の魔力を有しているからか。
翼龍の治癒を終え、共に玉座まで向かう。
予定では翼龍は帰らせるつもりだったが、また撃ち落とされたら面倒だ。
玉座までの道は一本道なため迷うことはないが、歩くには少し遠い。
「にしてもやっと魔王交代かー長かったなぁー」
魔王が倒されれば、倒した魔族が新たな王となる。それがこの魔界のルールであり力こそ全てなこの世界を形作る根元である。
「シャウラ様のお父様は何年魔王をされていらしたんでしたっけ?」
「あ?二千年くらいだったか?確か。てかアルル……貴様、僕のメイドならば父様のことくらい知っておけ」
「……失礼しました、私、シャウラ様のこと以外割りと興味ないので」
「はぁ?うるせえ!そんなことで喜ばねえぞ!」
「冗談です」
「冗談かよ!許さねえ!今度から朝飯抜きだ!」
「よろしいですよ、私、夜型ですので」
「そうだった!」
そんな他愛もない会話と足音を響かせ、玉座までゆったりと歩く。
先程のように急な迎撃があるかもしれないというのに、だ。
「そいや、さっきはあんな対空迎撃してきたくせにトラップもなんもねーのな。用心してんのか不用心なのかわかんねえわ」
と、完全に油断しきった途端、足元でカチッと音がなる。
「ぬわっ!?」
驚いて飛び退けるが、特に反応はなく爆発といった罠が起動する様子もない。
「気を付けてくださいよ、腐っても魔王城、罠なんてそこら中にあります」
「わわわわかっとるわ!」
まったく……と小言でぶつぶつ言いつつも周囲に警戒しながら歩を進め玉座へと辿り着く一行。
「さァて、新しい魔王様とやらはどんな面してんだろな」
期待に胸を膨らませ、どでかい門を開く。
「なんだ、これ……」
眼前に飛び込んできたのは変わり果てた玉座の間。
広いスペースに赤い絨毯、そして王座。たったそれだけの空間だったはずだが、そこらかしこに銀色の筒がとりつけられ、玉座があったスペースには丈10メートルもありそうな金色の土人形のような何かが鎮座していた。
さらにそのゴーレムの心臓部分には人1人入りそうな楕円形の物がつけられており、そこには何者かチューブ状のものを身体に何本突き立てられた状態で入っていた。
「とう……さん?」
そう、そこに入っていたのは前魔王である。
その場その場の描写が難しいですなあ
素人っていう免罪符で許してください