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鬼が出るか茶が出るか  作者: 草苅晏
猫じゃ猫じゃとおっしゃいますが
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猪口齢糖かぶぶ漬か5

「あ、はい! 初めまして。いつもお世話になってます。でも今日は一応全然宿酔じゃないですから」

「わかっています」

 猫は小さく笑う。


「お会いできて、嬉しいです。お返事は、やはり顔を合わせてさせてもらいたかったので」

 猫は口元を引き締めて、まっすぐに宿酔に視線を向けた。


「お気持ちを聞かせてくださって、本当にありがとうございます。今まで少しでもお力になれたとうかがって、とても励みになりました。ただ、お付き合いは、申し訳ないのですがお断りさせてもらいたいと思っています」

「いや、えっと、はい、わかりました」

 猫に丁寧に頭を下げられ、宿酔は落胆より恐縮の方が勝ったように慌てる。


「じゃなくてですね、いやその、わかったんですが、そうだ、そういえばほら、仮眠室って恋愛禁止みたいなルールがあったんでしたっけ」

「あるんですか、蛇」

「あるみたいですよ。ルールというよりは、暗黙の了解というか雰囲気のようなものですが」

「そうですか。初めて知りました」

 役者とその傍に控えて話の筋を耳打ちする黒子に対するがごとき器用さで、「ね、そうなんです」と宿酔は猫に向けて鷹揚に頷き蛇の存在をさらりと流す。


「だからその、今のは場所が悪いですよね。急だったし。往生際が悪いのは自分でもわかってます。でももう一度、チャンスをください。そのときは、仮眠室の外で改めて告白させて、いや、告白します」

「でも、やはり、あまり良いお返事は——」

「いいんです。俺の自己満足ですから。もう一回、あと一回だけ告白するチャンスがほしいんです。答えはそのときに聞かせてください」

「その方がいいのなら、わかりました。ではまた、そのときに」

 猫は宿酔に辞去の礼をとる。

「え、もう行っちゃうんですか」

「仕事がありますから」

「あ、仕事。そうですよね、うん、仕事。しなきゃね。頑張ってください」

「ありがとうございます。洗い物はそのまま置いていってください。後でやります」

「あ、はい」

「蛇。後はよろしくお願いします」

 今度は蛇に向けて、猫はまた頭を下げる。

「はいはい、任されました。安心してもらっていいですよ」

「では、失礼します」

 最後にもう一度礼をして、猫はカーテンをくぐるとヒールの音をほのかに響かせつつ退場した。


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