猪口齢糖かぶぶ漬か2
ぱちち、と爆ぜるような音はコンロに火をつけたのだろう。
「あ、わかりました? ココアって英語でいうとホットチョコレートなんですよね」
得々と述べる宿酔の声はどこか弾んでいる。
「お時間は大丈夫ですか」
「あ、はい。いつもと同じくお茶を1杯いただいてちょっとお話するくらいなら余裕です」
「そうですか」
「えーっとそれで、何の話をしましょうか」
「少し気になったのですが、ホットチョコレート、ということは」
「はい!」
「英語圏にアイスココアはないんでしょうか」
「……いや、そんなわけないと思いますけど」
もともと入っていた水量が少ないのか、前に沸かした湯がまだ冷めていなかったのか、さして待つこともなく湯が気泡を吐いてやかんをかたかたと揺らす。
マグカップとスプーンの触れあう硬質な音をこぽこぽと注がれた湯が和らげ、やがてカーテンの隙間から注文の品が供される。
猫が給湯室からマグカップを一旦仮眠室側に据えられた長机の上に置き、頼んだ者はそこからカップを取る。よくあるセルフサービスのカフェと同じ形式だが、仮眠室の常連にはパブになぞらえる者の方が多い。
「ありがとうございます。いただきます!」
有り余るほどの勢いで宿酔はマグカップを受け取り、そのままぐいと口をつけたらしい。
「熱いですよ」
少し慌てて告げる猫の抜き差しならない調子は、注意を促す、というよりも、警告を発する、と表す方が似つかわしい。蛇の知るところ猫は呼び名の通り重度の猫舌である。
「大丈夫です。あ、ちょっとこのまま待っててください。もう少しで飲み終わるんで」
幾程も経たないうちに宣言通り干したらしく、とん、と勢いよくカップが机に下ろされた。
「ごちそうさまでした! 好きです!」