表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
漆黒の魔剣士と白銀の姫君  作者: よこじー
第3章 天下統一編
91/117

第90話「侵略者の遊興」

 ナダルナル軍本陣。

 多くの兵たちが見守るなか、二人の男が剣を構えて向かい合う。

 片方は黒髪、もう片方は茶髪と見た目は若干異なるが、両者とも年齢や体格は同じくらいであった。


「悪い。俺は覚悟を決めた」


 先に言葉を発したのは黒髪のほうであった。

 彼はそう言うと、じりじりと間合いを詰めはじめる。


「お、おい! 冗談だよな……? まさか本当に殺り合うってのか? 俺たち親友だろう!」


 それに対し、茶髪のほうの戦意は著しく低かった。彼は必死の形相で剣を納めるよう訴えかける。

 これには黒髪も一瞬戸惑いの表情を見せたが、すぐさま何かを振り払うように首を横に振ると、再度剣を構えなおした。


「すまない。妻や子のためにも、俺はここで死ぬわけにはいかない」


 黒髪はそう言うと跳躍した。一気に相手の懐に入ると、剣を思い切り振るう。

 刹那、肉を抉る不快な音とともに、鮮血が飛沫した。


「ふざ……け……ん……」


 それが茶髪の最後の言葉になった。






「いやぁ、良いものを見せてもらった」


 そう言ってゆっくりと拍手したのは、ナダルナル軍総大将・アレク=ゲブランコ=ナダルナルその人であった。

 ナダルナル人特有の褐色の肌。口元を覆う黒くちぢれた髭。目は不気味なほど大きく、唇は分厚い。そして丸い鼻にはいくつもの吹き出ものができていた。

 そんな彼は今年で丁度50歳。立場としては現ナダルナル国王の叔父にあたる。


「そのほう、キーファスといったか? なかなかに良い太刀筋をしているな。流石はカーライムの騎士よ」

 

 アレクは黒髪の男・キーファスの戦いぶりを称賛した。

 キーファスも、その相手を務めた茶髪の男も、もとはカーライム軍の将。ナダルナル軍に抗い、敗れた者たちである。

 アレクは退屈しのぎに捕虜である二人を戦わせて、遊んでいたのである。


「きょ、恐悦至極でございます! あの……それで約束通り、妻と子は……」


 キーファスが恐る恐る尋ねる。

 戦って勝った方は、妻と子に合わせるという約束であった。それゆえにキーファスも親友を涙を呑んで斬ったのである。


「おお、そうであったな! しばし待っておれ」


 アレクは思い出したように手をポンと叩くと、すぐさま部下にキーファスの妻と子を連れてくるよう命じた。

 だが、次の瞬間キーファスは絶望することになる。なぜなら。


「シェリー! サリナ! どういうことだ、これは! てめぇら、二人に何をしやがった!」


「どういうこともなにも、戦で捕らえられた女がどうなるかなど、決まっているだろう?」


 兵士が運んできたもの。それはキーファスの妻・シェリーと、娘・サリナの首であった。その下はどこにも見当たらない。


「見ての通り二人とももうこの世にはいない。我が軍の将兵らがたっぷりと可愛がってやっていたのだがな、今朝方壊れてしまったので殺したらしい。ハッハッハッ! まあ、戦ではよくある事よな!」


「この外道め……! ならば俺はなんのために……なんのために友を斬ったのかッ!」


 キーファスの悲痛な叫びが辺りにこだまする。

 だがそれをアレクは嗤った。


「ハッハッハ! いいねぇその顔、最高だ。人が絶望した瞬間、私はそれがたまらなく好きでね。だから戦は止められない。しかしまぁ、屍と対面では気に召さぬか。それならば……」


 アレクの手の合図で周囲の弓兵が一斉にキーファスに矢を向ける。

 そして。


「あの世で妻と子に会わせてあげるのが情けよな」


 放たれた無数の矢は真っ直ぐにキーファスの身体を貫いた。

 





 一方その頃、カーライム軍の本陣にはオータス=コンドラッド率いる援軍が来着していた。


「援軍感謝いたします、コンドラッド伯。貴公の勇名は聞き及んでおります。共に力を合わせ、ナダルナルの蛮族どもを追い出しましょうぞ」


 南域貴族諸侯軍の指揮官・ポッスン=ヘイドリス男爵は、そう言ってオータスに深々と頭を下げた。さらには以後の軍の指揮権も快くオータスに譲渡した。

 オータスはそんな彼の丁寧な対応に好感を持ちつつ、すぐさま主だった諸将を集めると軍議を開く。

 そして国の存亡のかかったこの危機的状況を打開するべく、オータスは思案を巡らせるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ