第8話「戦のあと」
オータスはほっと安堵のため息をついた。
見渡してみれば地面には骸が無惨にゴロゴロ転がっている。
(俺、よく生き残れたな……)
もし、一歩間違えればそこに転がっていたのは自分だったかもしれない。
オータスはみるみるうちに体から力が抜けていくのを感じた。
そんなオータスを心配し、トレグルが声をかける。
「おいおい新入り、大丈夫か?」
トレグルはそう言うとオータスに肩を貸す。
彼もまたこの激しい戦いをくぐり抜けてきた猛者の一人だ。
当然体は疲弊しきっていたが、なんとか味方の陣まで肩を貸すことぐらいはできるはずだ。
「悪いな」
「なぁに、良いってことよ」
申し訳なさそうにするオータスに対し、トレグルはガハハと豪快に笑う。
そして二人は傷が痛まぬよう、ゆっくりと歩き出した。
やっとの思いで陣につくと、オータスはそこで衝撃的な光景を目の当たりにする。
「なんだこれは……」
目に飛び込んできたのは血まみれの負傷兵達が、横たわっている姿だった。
包帯や布などで一応治療はされているようだが、その姿はなんとも痛ましい。
傷口が傷むのか。あるいは戦場での嫌なことを思い出してしまったのか。
一人の男が獣のような呻き声を発し、もがき苦しみ出した。
バタバタと手足をバタつかせ、それはまるで必死になにかから逃げているようであった。
だが、しばらくするとその男は動かなくなった。
おそらく、もう手遅れだったのだろう。
それから彼が目を覚ますことも、動き出すこともなかった。
そんな光景を前にしばし呆然としていると、とある女性が話しかけてきた。
「あれ、オータス。どうしてこんなところにいるの?」
「なんで俺の名前を知って……ってユイナ!?」
久しぶりに見た彼女の姿は始めて出会ったときと同じ格好をしていた。
少し違うところといえば、鎧の隙間から見える素肌についた傷と汚れだろうか。
鎧自体にも泥や血がついており、どれだけ戦いが過酷だったのか伺える。
「傷、大丈夫なのか?」
「これ?たいしたことないし、治療もしたからたぶん平気。それよりもオータスのほうがボロボロじゃない」
「え、ああ」
ユイナに言われて自分の姿を見てみれば確かに体中傷だらけだった。
だが、そこまで大きな傷もないため、別にほっといてもいいような気がする。
「こんぐらい別に……」
「よくないよ。小さな傷でも放っておいたら、ばい菌が入ってそこから腐っちゃうかもよ?」
「それは嫌だな……」
「じゃあちゃんと治療を……そうだ。私がやってあげるわ」
ユイナはそう言うと包帯と塗り薬と思われるでろんとした緑色のゲル状のものを持ってきた。
いかにも傷に染みそうだ。
「いや、そんくらい自分でやるからいい……」
「いいからいいから遠慮しないで」
「いや、遠慮とかじゃなくて……って、あああああああああああああ!!!」
体中に走る痛み。
それは想像以上のものであった。
オータスはそのあまりの激痛に思わずバランスを崩す。
「え、ちょっと……きゃっ!?」
そして、それにユイナも巻き込まれ、まるでオータスがユイナを押し倒したかのような形になってしまった。
「いててて……悪いすまん」
「だ、大丈夫……」
目と目が合う。
あまりの顔の近さに二人は赤面した。
「あ、そのなんというか……ホントすまん」
「ううん、気にしないで」
身体を起こした後も二人の間に少し気まずい空気が流れる。
オータスもユイナもしばらく胸の鼓動が止まらなかった。