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漆黒の魔剣士と白銀の姫君  作者: よこじー
第2章 カーライム王国内乱編
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第82話「王都侵攻 ~其の伍~」

「いまだ! 敵指揮官を狙え! 奴は動けん!」


 傷を負い、倒れているオータスに数人の兵士が襲い掛かる。

 オータスを倒せば一番手柄は間違いなく、また戦況をひっくり返すこともできる。敵が放っておくはずがなかった。

 が、しかし。意気盛んに襲い掛かった彼らは次の瞬間、紅蓮の炎に包まれ、灰と化した。


「そう簡単に大将の首、渡すわけがないでしょ!」


 術を発動させたのは他でもない、マインであった。彼女はさらに詠唱を始めると、今度は小さな球状の膜がオータスを覆った。


「これは……?」


「結界です。コーロの関に張ってあったものに比べれば、はるかに小さく強度もないですが……。あとは私たちに任せ、オータスさんはそこで安静にしていてください」


 マインはそう言うと、再び敵へと向かって行った。

 オータスにはそれをただ見送ることしか出来ない。


(陛下に汚名返上を誓っておきながら、結局また何もできないのか……! ユイナやマインは懸命に敵と戦っているというのに……俺は……!)


 己の無力さがただひたすらに憎かった。

 そして願わずにはいられなかった。

 

(力が……欲しい。圧倒的な力が……誰にも負けない強い力が)


 刹那、激しい頭痛がオータスを襲った。





 二人の人物を見下ろしていた。

 一人は美しい女、もう一人はたくましい男である。

 女は悲しそうな顔を浮かべて言った。


「どうしてそんな姿に……。お願い、目を覚まして!」


 一方、男のほうは怒りのこもった声で言う。


「てめぇ! 魔族の言葉になんかにたやすく耳を貸しやがって……! お前は俺たち人間の英雄だろうが! その姿じゃあまるで……」


 だが、彼らの声は届くことはなかった。ソレは無造作に両の腕を二人に向かって振り下ろす。

 人の何十倍はあろうかという巨大な手。そして爪は獣の如く鋭利であった。

 二人の身体はいともたやすく吹っ飛び、大地は大きく割れた。

 そして、ソレは叫んだ。


「圧倒的ナ(チカラ)……手ニ入レタ……! コレデヤット皆ヲ救エル……!」





「なんだ、今のは……。俺の記憶……?」


 頭痛が収まり、目を開くオータス。ふと、己が身体を見てみると、なんと先ほど受けた傷痕が綺麗になくなっていた。

 それだけではない。なにやら得体の知れぬ力が身体の奥底から湧いてくる。


(あの黒い剣は手元にはない。では、この力は一体……!?)


 自分の身体に一体何が起きているというのか。しかし、オータスにそれを考える暇はなかった。


「きゃあ!」


 甲高い悲鳴が聞こえ、そちらに目を向ける。そこにはエステバに追い詰められたユイナの姿があった。

 オータスはすぐさま身体を起こし、駆け出した。マインの結界はオータスが手を触れたとたんに消えた。


(これもこの力のおかげなのか……)


 魔術の心得などまるでないオータスに結界の解除など不可能。で、あればそれはこの謎の力によるものとしか思えない。

 だが、今はそんなことを考えている場合ではなかった。死んだ兵士の剣を奪い、ただひたすらにユイナの元へと走った。

 





「嬢ちゃん、さっきまでの威勢はどうした! オータス=コンドラッドの懐刀はそんなもんか、オイ!」


 ボロボロになったユイナに、ゆっくりと近づいていくエステバ。彼の手には既に戦斧が戻っていた。

 はじめは互角であった両者。しかし、戦いの中でエステバが戦斧を回収すると、展開は一方的になった。

 エステバの怪力の前にユイナは手も足も出ず、そしていま彼女は苦悶の表情を浮かべ、なんとか立っている状態であった。


(やっぱり手強い……。でも……)


 ユイナは呼吸を整えると、なんと攻勢に出た。

 ボロボロの身体を無理やり動かし、剣を振るう。

 が、もはやその動きにキレはなかった。


「ほう、ここに来て攻めるか。だが、遅い」


 エステバは容易に彼女の剣を避けると、斧の柄の部分を思い切りユイナの腹部に打ち付けた。


「かはっ……」


 ユイナはそれをまともにくらい、吐血する。そして力なくその場に膝をついた。

 この好機をエステバが逃すはずもない。


「これで終わりだァァァ」


 エステバはユイナに向け、思い切り戦斧を振るった。

 今度は柄などではなく、刃である。まともに食らえばユイナは命を落とすだろう。

 だが、すでに彼女の身体は限界を迎えていた。もはや避ける力も防ぐ力も残っていなかった。

 観念し、目を瞑るユイナ。

 だが、ユイナの身体にその刃が届くことはなかった。


「すまないユイナ、待たせた。今度は俺がお前を助ける番だ」


 優しい聞きなれた声。ユイナが目を開けると、そこにはオータスの頼もしい背中があった。

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