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漆黒の魔剣士と白銀の姫君  作者: よこじー
第2章 カーライム王国内乱編
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第81話「王都侵攻 ~其の肆~」

 オータス=コンドラッドとエステバ=ジャンゴフ。刃を交えること数十合。しかし、両者とも相手の身体に致命的な傷をつけること叶わず。

 だが、そんな二人の壮絶な戦いもついに終わりの時を迎えようとしていた。

 

「流石は音に聞こえたコンドラッド伯爵。なかなかにしぶとい……。が、これで終わりだァァァ!」


 エステバが叫ぶ。一気に間合いを詰め、オータスの頭に渾身の一撃を振り下ろす。対するオータスはそれを剣で防ごうとした。

 だが。


「なにっ……!」


 鈍い金属音が響いたかと思うと、次の瞬間、オータスの剣に大きな亀裂が入った。

 亀裂はどんどん広がっていき、やがて。


「ぐはっ!」


 剣は半ばから折れ、そして鋭い斬撃がオータスを襲った。

 大量の血を噴き出し、オータスはその場に倒れる。

 咄嗟に避けたため、頭部への致命傷は回避できた。だが、肩から腹部にかけてが大きく抉られていた。


(力が……入らない。クソ……こんなところで)


 オータスは己の無力さを呪った。

 そしてそれと同時に思い知る。今まで数多の武人と渡り合ってこれたのはあの漆黒の剣のおかげであったのだと。

 もし剣が漆黒の剣であったならば、いくら敵の一撃が重かったとしても、このように折れることなどなかっただろう。

 足音が近づいてくる。オータスは残る力を振り絞り、逃げようとした。

 だが、この大傷で逃げられるはずもなく。


「んがっ……」


 身体を押さえつけられ、完全に動きを封じられる。

 戦斧を置き、短剣を抜く音。

 いまから己が首をその短剣がかき切るのだと思うと、恐怖でどうにかなりそうになる。

 だが、オータスは取り乱さなかった。覚悟を決める。


「やり残したことはたくさんあるが……まあ敗れては致し方ない。この首、手柄とせよ」


「言われなくともそうするつもりさ。あばよ。あんたとの死合い、楽しかったぜ」


 ニッと笑う二人。

 不思議と恐怖心も傷の痛みもどこかへと行っていた。死ぬ直前だというのに心は静かだった。


(ユイナ……悪い)


 オータスは頭に一人の思い人を思い浮かべ、目を瞑った。

 そして。エステバの刃がオータスの首をかき切る、かに思えた。

 しかし、オータスの首と胴が離れることはなかった。





「させない!」


 まさにオータスの肌に刃が触れようとしたその時であった。

 エステバに襲いかかる一つの影。

 瞬時にその場から離れたエステバであったが、オータスに意識が行っていたため反応が少し遅れた。


「ぐっ……」


 エステバの顔にわずかだが浅い傷が出来る。

 だが、彼とて歴戦の猛者。その程度でうろたえない。態勢をすぐさま立て直し、相手を見る。

 すると、そこにいたのは軽鎧姿の美しい少女であった。


「不意を突かれたとはいえ、この俺に傷をつけるとは。どんな屈強な大男かと思えば、まだ10か20の嬢ちゃんじゃねえか。こいつは驚いた」


「私の名はユイナ。主に代わって私が相手になります」


「ほう。コンドラッド伯爵の腹心か。いいぜ嬢ちゃん。とことんまで死合おうや」


 両者は次第に間合いを詰め、そして激突した。

 刃と刃が幾度もぶつかり合う。

 両者の実力はほぼ互角であった。

 いや、本来であれば実力はエステバのほうが上であっただろう。だがしかし、エステバはオータスにとどめを刺そうとしたとき、斧を置き、短剣に持ち替えた。それは首の取りやすさゆえのことであったが、その判断が命取りとなった。

 ユイナに斬りかかられたとき、回避することに精一杯で、斧を回収する余裕などなかったのだ。つまりはいま、彼は本来の得物ではない短剣で戦っている。

 しかし、それでもなお後れを取らないのは流石は近衛中将といったところだろうか。両者の激突はさらに激しさを増していく。





 一方その頃。王都の外・シアン軍の本陣では。

 軍装に身を包み、馬に跨るシアンを複数人の兵士たちが止めていた。


「お考え直しくだされ陛下! 城へ陛下自ら乗り込むなど、危険でございまする!」


「いくら王都と宮城のほとんどを制圧したとはいえ、いまだ戦闘中です。どこに陛下の御命を狙う輩が潜んでるかもわかりません! どうかご自重くだされ!」


 だがそんな彼らの言には耳も向けず、シアンは馬を走らせようとする。

 しかし、彼女の前には一人の男が立ちはだかった。


「どこへいかれるおつもりか!」


「ユーウェル卿……。どいてください。この戦の発端は私と私の兄によるもの。ならばやはり、私自らがこの手で決着を着けなければなりません!」


 シアンの言葉には力強い意志が籠っていた。彼女は責任を感じているのだ。

 この国を、乱したこと。そして多くの者たちを過酷な戦に巻き込んだことに。

 これは彼女なりのけじめであった。


「ど、どうしてもどかぬというならば力づくででも……」


「お待ちください陛下。陛下は大きな勘違いをなされておられる。このユーウェル=スタンドリッジ、一言も陛下を止めておらぬではないですか」


「え」


 きょとんとするシアン。確かに思い返してみると、スタンドリッジは何処にいくかは尋ねたが止めてはいなかった。

 スタンドリッジは優しく、そして力強く言った。


「このユーウェル=スタンドリッジが陛下の護衛に就きましょうぞ。御身を必ずやお守りして見せまする」

 

 こうしてシアンは、スタンドリッジとその配下のわずかな兵たちと共に、怨敵のいる宮城へと向かっていった。

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