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漆黒の魔剣士と白銀の姫君  作者: よこじー
第2章 カーライム王国内乱編
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第80話「王都侵攻 ~其の参~」

 「報告します。敵軍、南門を突破。現在、城下町にて交戦していますが、敵の勢い凄まじく、そう長くは持たないかと」


 兵がうやうやしく頭を下げ、戦況を報告する。

 が、彼の頭の先、玉座に人の姿はない。

 代わりに玉座の傍に控えていた男が返答した。


「う、うむ。ご苦労であった。下がってよいぞ」


 しかし、その声は酷く震えていて、とても頼りない。

 見た目も細く貧弱で、鎧を着ていなければ誰も彼を武人だとは思わないだろう。

 彼の名はブリュー=ゲロック。王の側近くを守る近衛兵の長・近衛大将の地位にある。

 現在、彼の主であるカスティーネは自室で女たちと遊興にふけっており、また宰相のグロワーズは地下牢へと行ったきり帰ってこない。そのため、彼がいま玉座の間で一番上の立場であった。

 しかし、彼はそもそもその地位に見合うほどの器を持っていない。前任の近衛大将はカスティーネに反抗的であったため処罰された。そのため「意志が弱く、傀儡にしやすい」という理由だけで彼が抜擢されたのであった。


「うう……。早く宰相殿戻ってこないかなぁ……。胃が持たないよ……」


 ついにはそんな情けない泣き言を口にする始末。

 そんな彼の姿を見るに見かね、一人の男がブリューに進言した。ブリューとは対照的な筋骨隆々の大男である。


「ブリュー大将、俺を前線へ行かせてはくれやせんか。俺がなんとしてでも敵を足止めしやす。もはやこの戦、勝ち目はないでしょう。ならば、俺が敵を食い止めている間に、大将が陛下を逃がす。もはやこれしか道はないでしょう」


 近衛中将・エステバ=ジャンゴフ。それがその大男の名であった。

 彼はブリューとは違い、先王の代より二代にわたって近衛中将を務めている正真正銘の猛者である。

 かつて、イーバン王が複数人の暗殺者に命を狙われたとき、エステバがその暗殺者らをことごとく返り討ちにして見せたという話はあまりに有名であった。

 

「し、しかし。私の一存では……。ここは宰相殿が戻るのを待った方が良いのではないか」


「大将!この期に及んでまだそのような悠長なことを……!」


 エステバは思わずカッとなり、声を荒げる。

 すると、ブリューは「ひいい……!」と怯えて部屋の隅で丸くなってしまった。


「だから私は近衛大将になんてなりたくなかったんだ……。偉くなんてなりたくなかった……。ただ一介の近衛兵として働いて、妻と子を養えるだけの金が貰えればそれでよかったのに……」


 そして、ぶつぶつと呪文のように愚痴をこぼし始めた。エステバは頭を抱える。

 と、その時。


「はぁはぁ……。ほ、報告します。敵軍、城内に侵入。じきにここに押し寄せてきます。どうか、お逃げ……くださ……」


 再び兵士が戦況を報告しに来たかと思うと、その者はすべてを言い切る前に倒れてしまった。

 倒れた彼の身体には無数の矢が刺さっており、全身血まみれである。ここまで来れた時点で十分奇跡と言って良い。


「ご苦労だったな。安らかに眠ってくれや。俺もひと暴れしたらすぐに後を追うぜ」


 エステバは物言わぬ屍となったそれに優しく語り掛けると、得物の戦斧を構えた。

 すでに兵たちの怒号と悲鳴が聞こえてきている。

 そして、ついに一人の男が玉座の間に姿を現した。

 それは漆黒の鎧に身を包んだ若武者であった。





 玉座の間に鈍い金属音が響き渡る。

 オータス=コンドラッドの剣。エステバ=ジャンゴフの斧。二つの得物が幾度も交わり、火花を散らす。


「やるな……。おめえさん。名は?」


「オータス=コンドラッドだ」


「コンドラッド……!? 反乱の首謀者・オータス=コンドラッド伯爵か! そんな大物と刃を交えられるとは光栄だね」


「敵の言葉とはいえ、大物などと言われて悪い気はしないな。で、あんたの名は? こっちは名乗ったんだ。名乗り返すのが礼儀だろう」


「おっと、すまねえ。俺はエステバ=ジャンゴフだ。こう見えても近衛の中ではわりと偉い方でな。部下たちの前でそう易々とはくたばれねえんだわ」


「それはこっちも同じ。シアン陛下がその玉座に座られるその日まで、この首渡すわけにはいかん」


 会話の間も剣戟は止まない。

 交わる度、両者の刃はさらに重みを増していく。

 一方、その周囲では。

 

「はいそこー! 二人の勝負に水を差そうとしない!」


 戦場に似つかわしくない明るい女性の声が響いたかと思うと、次の瞬間、エステバの援護に向かわんとした兵士の頭上に突如、氷の刃が降り注いだ。

 声の主はマイン。彼女は得意の魔術で周囲の雑兵を掃討していた。


「次は燃やしちゃいますよ!」


 そう言って今度は炎の玉を作り出そうとしたその時。

 詠唱中の一瞬の隙を狙って一人の兵士が一気に間合いを詰めた。


「調子に乗ったな! 小娘!」


「しまった……!」


 マインはすぐに詠唱を中止し、防御魔術を発動しようとした。

 だが、遅かった。

 彼女が術を発動するよりわずかに早く、剣が振り下ろされる。

 そして剣先がそのままマインの頭を真っ二つに切り裂くかに思えた。

 だが、そうはならなかった。


「マインさんだっけ? 流石に油断しすぎ」


 ユイナはそう言ってニコリと笑うと、敵兵の剣を押し返した。


「え?」


 なにが起きたのか分からずきょとんとするマイン。

 だが次第に状況を理解する。

 マインが敵に斬られる直前、間一髪のタイミングでユイナが二人の間に入り、敵の攻撃を防いだのである。


「ちっ! 邪魔者が入ったか! だがこいつも所詮は女! 二人纏めて仲良く串刺しにしてくれるわ!」


 マインを仕留めそこなった兵士は悔しさのあまり激高した。そして、すぐさま体勢を整えると、再び二人に襲い掛かった。

 彼はあまりに愚かであった。誤ってはいけない判断を誤った。

 刹那。兵士の首と胴はユイナの一刀によって分かたれた。

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